演奏

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TEXT,PHOTO:桂伸也

日本では過小評価の傾向が強いかもしれないが、海外ではその実力を高く評価されている古豪バンド、SOLITUDE。2009年12月にリリースされた彼らのアルバム 「Brave The Storm」のヨーロッパ・リリースを記念し行われてきた国内ツアーが、この11月25日、高円寺MISSION’Sにて行われた。この日はなんと同じく海外で高い評価を得ているゴシック・ロック界のスーパー・スター、AUTO-MODと対バンという貴重なイベントとなった。両者ともにその筋では偉大な功績を作り上げてきたグループだけに、その雄姿を一度に体験できるこの機会は非常に貴重だ。その衝撃のステージの様子を追った。
 
1.AUTO-MOD
GENET – Vocals
YUKINO – Guitars
MASA – Bass
TELL – Drums
Selia – Chorus, Performance

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陰湿な雰囲気の中、ステージの幕は上がった。だが、薄暗いステージは変わらず闇が全体を支配していたようにも見えた。構えるように立つYUKINOMASA、中央に怪しく佇むSelia。その中で一人、ステージに背を向けて立つGENET。彼の手には大きな書物が抱えられ、そこに放たれた炎だけが、この暗い会場の中で唯一の光として人々の視線を集めていた。壮大なサウンドの中に響く、美しくも危険な香りを漂わせるコーラス。「Dance with 20th Century」を、まるで語るように歌い上げるGENET。特別に音圧を上げるような歌い方をしているわけでもないのにその存在感は、まるで先程の、闇の中の光のように際立っていた。
「OK! Rock’n Roll!」
GENETが叫ぶ。通常のロックとはかけ離れた独自の雰囲気が会場を包む。ワルツや4ビート、そしてシャッフルといったリズムの中でも、彼ら独自のノリを作り上げるAUTO-MOD。その妖しく不安をかき立てられるミステリアスな世界に浸った会場の観衆は、ただ呆然とその様子に取り憑かれたように見入るだけだった。
 
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「Thank You!俺達はAUTO-MODといいます!」
GENETがフロアに、今回のSOLITUDEとの共演についての思いを改めて語った。その言葉は単なる今回のイベントに対する挨拶程度のものでしかなかったが、その幕が開いてからずっと漂っている空気と、彼らの存在だけで、何かこの機会に賭けた意気込みすら感じられる。ヘヴィ・メタル界でその牽引役を果たしてきたSOLITUDEと、ゴシック・ロックのイノベーター的な役割を果たしてきたAUTO-MOD。表現の形は違えど、世のメディアの動きなど全く構わず、自我のプライドに従いそのスタイルを頑なに守り続けてきた彼ら。そこには、単なる異種の共演という文字通りの意味合いを超えた、二つのグループが共感する部分で新たな世界を作り出している一部始終とも見て取れた。
 
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失踪するリズムはなくとも、その会場を漂う空気の中で、彼らの作り出すうねりが観衆の感性を直撃する。幻想的なハーモニーの中で、一人の男が物語を語り続けるような世界。オルタード系の不安と盛り上がりを入れたトーナリティが、オーディエンスの視線をまるで催眠術に掛けたようにステージに縛り付け、人々の体を揺らす。少しでもその流れが激しさを生み出せば、その微妙な動きに反応し、一気に会場内で大きな波紋を呼び起こす。何もかもが冷たい金属質のサウンドは、更に会場の雰囲気をミステリアスに、そして激しい感情を揺り動かしていく。歌いながら上下するGENETに合わせ、揺れ動くオーディエンス達。彼の動きやヴォイスは、ある種コミカルなイメージもあったかもしれないが、Seliaの美しくも妖艶なコーラスとの対比で不思議な空間を作り出す。その様は、単なる“ゴシック系”というありきたりの表現では語り尽くせない、また一つの音楽を楽しんでいるという雰囲気とは違う濃密でミステリアスな場を、会場の隅々の要素とともに構成されているようにも見えた。
 
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そして、一時の不思議な物語は終焉にたどり着いた。GENETがこの機会に対する感謝の念を語り、ステージはクライマックスを迎える。文字通りロックらしい8ビートのリズムを叩き込むTELLのドラムを主体に、激しさを増したサウンドが会場に浸透していく。その快活なベースの中でも、彼ららしさともいえる異様な空気感は損なわれず、フロアはますますその世界に引き込まれていく。ラストナンバーは、彼らの持つイマジネーションの究極ともいえる「Deathtopia」。そしてエンディングへ。感極まったGENETは、その抑えきれない衝動を解き放つかのようにモニター・スピーカーを持ち上げ、会場を恐怖のどん底に突き落とす。
そのスピーカーは投げ込まれることはなかったが、その衝動に込めた彼の意志は、フロアの観衆へ打ち込まれ、消えないショックとして刻み込まれたようだった。
 
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◆公式サイト
http://www.auto-mod.com/

◆セットリスト
M1.Dance with 20th Century
M2.Merry go-round
M3.Queen of Vicious
-MC-
M4.Good Bye
M5.Mind Suicide
M6.Hate of Love
M7.禁呪
-MC-
M8.Devil Dance
M9.Belzebuth
M10.Deathtopia


2.SOLITUDE

杉内 哲(以下、杉内)- Vocals
西田 亨(以下、西田)- Bass
井田 真悟(以下、井田)- Guitars
大内“MAD”貴雅(以下、大内)- Drums

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その独特な空気で人々を魅了するAUTO-MODとはスタイルを異にし、もっとストレートにファンの脳天を直撃するSOLITUDE。その彼らを待ち望むファンの姿は、AUTO-MODのステージとはまた異なった、熱い空気を生み出していた。
アコースティック・ギターで奏でられるイントロのSEが流れる。まもなく一人、また一人とメンバーが登場すると歓声はそのたびに大きくなり、最後の杉内が登場したときに、それは最高潮に達した。
「Come on, Mission’s!!」
杉内の叫び声で、ステージの幕は切って落とされた。激しいサウンドが会場を一気に覆い尽くす。現れた杉内の存在感に、会場は一層狂気の感を表した。心なしか笑っているようにも見えた杉内の、その目の輝きには、この日の会場となったMISSION’Sを席捲する自信の程すら見える。
大内が繰り出す激しいバスドラの響きが、会場全体に響き、その音を更に増幅するように分厚く硬質な西田のベースラインと図太い井田のギターリフがグイグイと切れ味鋭いサウンドを繰り出す。その凶暴なサウンドの中にフロントマンとして最前列に君臨する杉内。その野太く力強いヴォイスには、近年の激しさばかりが先行しがちなメタルコア系のサウンドとは一線を異にした風格すら感じる。
 
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「みんな来てくれてありがとう!長丁場だけどついてこいよ!!」
「Yeah!」
けたたましい響きを聴かせた「You Were All Of My Life」「You Wish」からの幕開けから、次はボトムを若干落とし、「Brave The Storm」へ移る。フロアの者は皆興奮し、必死で腕を振り上げ、歓声を搾り出す。その声に耳を傾ける杉内。だが、
“そんなんじゃ聞こえねぇよ!!”
とばかりにフロアを煽る。そんな彼の動きに呼応して更に躍動する前列の観衆達。ともすれば軟弱なプレイヤーがこんな風貌を見せてしてしまうと、単なる茶番で終わってしまうものを、しっかりと自分を見せるスタイルとして確立しているSOLITUDE。単純にラウドで激しい音を出すという、短絡的な似非メタルとは似ても似つかない歴史の堆積すら感じるその重厚なサウンドは、いつしか「Angel’s Son」のブリッジで響き渡るメロディの中で、ファン達が叫ぶ分厚いコーラスすら生み出していく。
 
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AUTO-MODはこちらから対バンを申し込んで今回のイベントとなりました。本当に緊張しています。ロックは縦社会だから(笑)」
ジョークを交えながらも、はっきりと尊敬の念を語る杉内。先陣を切ったAUTO-MODの、執拗なまでにダークで怪しいものへの拘りは、正にそのイノベーターたるプライドに基づいた根の深い強固な壁として、この日、SOLITUDEの前に立ちはだかった。それに対して、杉内をはじめとしたメンバー達はどう立ち向かうのか?
それはすぐさま、そのサウンドで返答された。果てしなく続く単一のトーナリティの中でも、大きなグルーヴを感じさせ、聴いてる者の気持ちを常に音に向かわせる力を持っている。更にフロアと対話する技に長けた杉内のパフォーマンスは、ひと時もフロアを置き去りにしない、ライブならではの一体感を強めている。
 
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ステージは後半に入り、全く激しさに一点の陰りすら見せない。景気づけとも見えたインストナンバーの「Head Wind」で、切れ味鋭い西田のベースと、井田のギターを堪能させ、改めてそのハーモニーの完成度の高さを会場全体に認識させながら、クールさを持ったAメロから、パンチの効いたサビが印象的に響く「Eagle Fly」、スーパー・ヘヴィ・ナンバーの「Brainwash」と、来るべき絶頂に向けてステージを更に熱くしていく。
ステージ最前列で両腕を広げ、観衆の気持ちを受け止めるよとする杉内。大柄な体格からその広げた様は見た目以上に大きな印象を醸し出し、歓声をどれだけ上げようとしっかりと受けてくれそうな度量の広さすら感じさせる。
「ラスト二曲だ!行けるか!?」
「Yeah!!」
怒号のような荒々しい歓声が上がった次の瞬間、均衡を破るような長いシャウトが、会場の宙を切る。最後の力を振り絞るように、そして会場を揺らすかの如く激しくヘッドバンギングをする観衆、その様子に親しみを込めながら、“もっと!もっと!!”と更に相手を煽っていく杉内
すべての激しさの根源となる大内のドラム。地を揺らすようなバスドラの連打の上を、あらゆる均衡を打ち破るようにスコーンと鳴り響くスネアのショット。そしてその上に幾重にも重ねられた分厚いハーモニーが、更にこのライブの凄味を増幅させる。
最後に響いた「ありがとう!」という杉内の声が、このときの余韻を何時までも響かせていた。
 
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鳴り続けるアンコールに引き込まれながら、現れたメンバー達。何となしに杉内が口走った「SACRIFICE」の言葉にフロアは大きく反応。収拾のつかないフロアの状態に、困惑した笑いを見せながら杉内がフロアに語りかける。
「お前ら、本当はSACRIFICEが好きなのか!?」
そして大サービスとばかりに、杉内西田がかつて在籍し、日本のアンダーグラウンド・シーンに君臨したSACRIFICEの代表曲「Friday Nightmare」のリフを聴かせるイントロから「Virtual Image」へ、更に重ねて沸き起こるアンコールの叫びに答え、SAXONの「Frozen Rainbow – Rainbow Theme」を重圧感溢れるサウンドで熱演、かくして観衆をすべてノックアウトという状態でこの日の幕を閉じた。
 

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◆公式サイト
http://www.spiritual-beast.com/solitude_japan/index.html(Spiritual Beast)
http://www.myspace.com/solitudejapan(Myspace)

◆セットリスト
M1.You Were All Of My Life
M2.You Wish
-MC-
M3.Brave The Storm
M4.Walk In Paradice
M5.Angel’s Son
-MC-
M6.Believe Bright Tomorrow
M7.Two Faced In My Soul
-MC-
M8.Head Wind
M9.Eagle Fly
M10.Brainwash
-MC-
M11.Falling Down
M12.Volcanl Of Anger

Encore
EN1. Friday Nightmare (SACRIFICE)~Virtual Image

2nd Encore
EN2.Frozen Rainbow – Rainbow Theme


最後のアンコールを奏でる直前に、杉内が語った。
「これからも地道にやっていこうかな、って思っています。地道にやるような歳じゃないんだけど(笑)まあこういう音楽は地道にやらないとどうしようもないんで。俺達、こういう曲しか好きじゃないし!!」
その言葉には、この日の総括が余すところなく詰め込まれていたようにも見えた。
メタル界ではそのスタイルに深みすら見せ、大御所と評価されて当然のはずである彼らが、そんな現状に甘んじず、更に高みに向かって進んでいく。その姿は、オープニングを飾ったAUTO-MODにも同様に見られた。互いに進化を止めない彼らの姿には、ある種火花散る闘志のようなものすら見られた。
強力なライバル同士の対決はこうして幕を閉じたが、互いのプレイに感じたこと、その様子を形としてファンに披露したこと、そして更なる進化を続ける姿勢と、今に留まらない彼らの姿勢は、更にハードなロックのスピリッツを色濃く社会に浸透させる原動力となることだろう。