白井良明が2017年秋に結成した”新人バンド”、
for instanceが、浅草公会堂以来、5カ月ぶりに始動!ドラム2台、ギター、ベース、鍵盤という5人編成のインストバンドは純粋に音楽で遊び尽くそうという、実験的でもあり原点回帰でもある唯一無二のバンドだ。
5カ月ぶりのステージは三軒茶屋のライブバー「GRAPEFRUIT MOON」。階段を降りて扉を開いた瞬間に感じる居心地の良さ。期待が高まる。客席とステージがめちゃくちゃ近い!この距離で、しかもツインドラムが風神雷神の如く鎮座している。となるとセンターの白井良明が座るところが雷門でいうところの大提灯か。
◆for instance メンバー:
白井良明(Guitar)、オータコージ(Drums)、柏倉隆史(Drums)、雲丹亀卓人(Bass)、コイチ(Keyboard)
満席の中、午後7時半を回ると下手に柏倉隆史、上手にオータコージが座り、対面すると、まずは全ての音を鳴らしてみようとばかりに確認し合いながら色んなところを叩き始める。2人の呼吸がシンクロしてきたところでコイチも登場。無造作なオータコージのシンバルに合わせてキーボードも音を出し始める。雲丹亀卓人、白井良明もステージに合流し、清澄に整調。観客もバンドの成長を静聴。スペーシーなサウンドが共鳴する中、白井良明のギターが踏切音のようなシンプルな音を発すると、いつの間にかこの空間の音の中心はギターになっている。ゆっくり、一音ずつ。左右のドラムは、柏倉隆史が土台、オータコージが屋根となって、全体を支える。ベースがグンとアクセルを踏んで加速すると、ドラム、ギターも追従。時折存在感を見せるキーボード。宇宙旅行の舵はギター。時に激しく、時に歪みながら、徐々に静かになり、着地。しっとりとした拍手が起こる。
続く2曲目は池澤夏樹の短編小説にインスパイアされたという「Helsinki」。深いリバーブの湖に心を沈めていくような、憂いと諦観の狭間で揺れる心地。全体的に落ち着いた進行の中で、ギターが自由に音飾を加えると、ドラムがすぐに対応する。静かに呼吸を合わせて、フェードアウト。小説の世界観がそのまま音楽で表現される。言葉は一言も発されていない、だからこそできる表現だ。
「step2ということで、新曲もやろうと思っています」と白井良明が宣言すると、オータコージから「リハなかったので…」と意外な事実が明かされる。各々多忙なメンバーのためスケジュールが合わず、この日の朝早くからスタジオに入って揃えたのだという。「バイブスはばっちり」と白井良明が笑顔で答える。
そして4曲目、for instanceの”デビュー曲”にして彼らを代表するナンバーと言ってもいい「Of 8 minutes 7」。「きょうは皆さんに手拍子をお願いしようと思う」と話すと、難易度の高い8分の7拍子を「タンタタスタスタ、スッタンタン」と覚えてもらいながら練習。この日のオーディエンスは20代男女も多く幅広い年齢層が見られたが、すんなりと手拍子は揃う。そして、イントロのギターが宴の始まりを告げる。柏倉隆史のスネアが軽快に跳ねる。白井良明は右手の人差し指を挙げてバンドメンバーに合図。5人ともみんないい笑顔だ。
5人のグルーブがピークに達すると、今度は一人ひとりのお気に入りのフレーズが代わる代わる放り込まれる。鍵盤は伸びやかに。六弦は自由に踊る。速弾きも披露されつつ、ドラムが次へ、次へ、と節目を作る。この際限ない音の広がりにはいつまでも包まれていたい。
コイチがイントロのフレーズを弾くと、「今度は簡単な手拍子ですから」と白井良明。5曲目は「intonation 2」。こちらもfor instanceで作られた曲だ。鍵盤の上に六弦が重なり、そして全員揃って横一線疾走。やはりドラム2台の迫力と音の幅広さが楽しい。6曲目は2014年リリース『FACE TO GUITARS』収録のポップな曲「青山通りを今日もまた」。ギター、ベース、キーボードのトライアングルが鮮やか。
そして一部最後は彼らの自由なセッションの”原石”とも言える曲を披露ということで、その名も「instant compose」。同じバンドSAWAGIの一員としても活動している雲丹亀卓人とコイチが中心となって、即興で音を奏で、重ねていく。コイチの流麗なピアノに、雲丹亀卓人のベースも上品に音を乗せる。そこに2台のドラム、そしてギターも合わさるのだが、イメージとしてはキーボードが道を作った後に、その上をギターが歩くという感じ。さらに、ギターが爪弾くとドラムも後を追う。ギターが一歩引くと、キーボードが新たなフレーズを投入。すぐにギターも合わせる。
なんだか公園で遊ぶ子どもたちをベンチに座って見ているような、そんな多幸感に包まれる。「きょうはこんな感じ!」音楽という遊びはいつだって自由だ。
そして、夜の波止場を散歩するような、静かなピアノから入るのは「float’ in 40」。白井良明のラップがリリカルだ。中盤、5人のモダンジャズは一気にスピードを上げて駆け抜ける。続く「quiet funk」は、全ての音が揃って山場を迎えたところで全員で「WAO!」の合唱!さらにオーディエンスに仕切り直しの4カウントを委ねる。この一体感は浅草公会堂でもダイナミックで格好良かったし、今宵の三軒茶屋でもいっそうの濃密さがあってやはり格好良い。予定調和ではない、今この瞬間に出来上がる一度限りの作品だ。
リズミカルでカラフルなベースが楽しい。モノクロでない、フルカラーのベースだ。そしてドラムには力強さとメリハリがある。柏倉隆史のストップモーション。間の空気でビートを刻むオータコージ。コイチはミステリアスな音色を奏でる。各メンバーのソロパートも設けられ、盛り上がりは最高潮!
いよいよ12曲目はフュージョンなナンバー「き・つ・ね」。多彩な表現には躍動感と安定感が同居する。音階を順に登っていくところの気持ち良さ。オーディエンスも一緒に演奏している気持ちになれる。
本編最後は「Rock’ n Roll」。演奏開始からいきなりボルテージをマックスに引き上げると、みんなで一緒に頭を振ってリズムを取れる、これぞロックンロールという5人のプレイ!最後、演奏を終えると柏倉隆史はガッツポーズ!オータコージは大きく肩で息をする。オーディエンスもみな、この2人と同じ心境でいるに違いない。
終演後、オータコージが自身のサイトで「ハラハラ」「ヒヤヒヤ」だったことを明かしているが、「リハなし、半年ぶりの新人バンド」を、個々のスキルとキャリア、そして全てを包み込む白井良明の懐の深さがこんなに素晴らしく楽しいライブを実現したのだと思う。そしてどうやら、for instanceの挑戦はまだまだ続くらしい。平成最後の夏、進化と実験を続けてやまないfor instanceを今後もフォローし続けたい。
-1st set-
M01. 君と会った翌日は
M02. Helsinki
M03. norwegian wood
M04. Of 8 minutes 7
M05. intonation 2
M06. 青山通りを今日もまた
M07. instant compose
-2nd set-
M08. tremolo my life
M09. intonation 3
M10. float’ in 40
M11. quiet funk
M12. き・つ・ね
M13. Rock’ n Roll
-encore-
M17. トンピクレンッ子
◆白井良明 公式サイト
http://tonpi.net/
『PANTA & 白井良明 ライブ ~長野の続き』
・2018年08月24日(金)【東京】二子玉川Gemini Theater
出演: PANTA/白井良明 /for instance〔白井良明(Gt.)/オータコージ(Dr.)/雲丹亀卓人(Ba.)〕
『Harvest Parade~初日』 ULTIMATE MUZIK?!~for instance×Ortance
・2018年10月01日(月)【東京】三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON
出演 :
・for instance <Gt.白井良明/Dr.オータコージ/Dr.柏倉隆史/Ba.雲丹亀卓人>
・Ortance <坪口昌恭(Syn / P) 西田修大(G) 大井一彌(Ds)>
・DJ 生活と欲望(KAMINARI WORKS)
『for instance』
・2017年12月13日(水)発売
VSCD3215 ¥2,800+税
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