ポカリスエットのCMソングなど、どこかで一度はその歌声を聴いたことがある人も多いのではないか。シンガー・ソングライター、高井息吹。ピアノと歌で、御伽の世界(=ワンダーランド)に私たちを連れて行ってくれる。夢のような世界を紡ぎ出すのだが、魔法とか不思議とか言った西洋的な世界観もありつつ、どこか遠い昔の日本的な世界観も共存し、親近感を持つのだ。
1993年生まれの高井息吹は5歳からクラシックピアノを始め、幼少期から自分で聴いた音楽をピアノでアレンジし弾いていたという。その後、吹奏楽やバンドなど、様々なスタイルの音楽に触れ、19歳頃から本格的に作曲や弾き語りなどの音楽活動を始動。国立音楽大学在学中の2015年5月に1stアルバム『yoru wo koeru』をリリースし、TOKYO FMのブランニューソングに選出された。その後、『SUMMER SONIC 2016』に出演したり、ポカリスエット、マイナビ、トヨタなど数々のCM曲を担当するなど活躍の場を広げ、弾き語りに、バンド、様々なミュージシャンとのコラボレーションなどライブ活動も精力的にこなしている。
そんな高井息吹が自身2枚目のアルバム『世界の秘密』を2017年12月にリリースし、それを記念したワンマンライブ『秘密の世界』を2018年3月30日(金)に東京・青山月見ル君想フにて開催した。都内屈指の居心地の良さが音楽ファンに支持される月見ルの満月の下、『SUMMER SONIC 2016』の舞台にも共に立った眠る星座との共演、バンドセットでいったいどんなワンダーランドに連れ出してくれるのだろう。
◆高井息吹と眠る星座 メンバー:
高井息吹(Vocal & Pianoforte)、君島大空(Guitar)、新井和輝(Bass)、坂田航(Drums)
1曲目は新譜『世界の秘密』の1曲目に収録された「うつくしい世界」。高井息吹の鍵盤に合わせ、君島大空は弓を使ってギターの弦を弾く。ギターは珍しいボウイング奏法、そして新井和輝が操るのは大きなウッドベース。強い個性を持つ二者が鍵盤の音を優しく引き立てる。
暗転を挟んで、シンバル4カウント。ステージ背後の満月がカラフルに染まる。『世界の秘密』の中でも底抜けに明るい2曲目「Carnival」だ。曲の中盤からはNAPPI(Trombone)、ムラカミダイスケ(Sax)によるホーンセクションも加わり、ゴージャスさを演出。”夢にまで見たカーニバル”の出現に、観客もノリノリで応える。ギターがポップに跳ねる3曲目「Mr.yellow」。高井息吹は無邪気に朗らかに歌う。「まだ終わりたくなんかないよ このまま銀河の果てにさよなら~」童心に帰って、いつまでも遊んでいたい。
「精一杯お届けするので、みなさん1秒も、どうか見逃さずに、一緒に楽しんでいただけたら」…このステージに懸ける思いを言葉にした高井息吹、客席を見渡すと安心したように「はぁ」と可愛らしく呟き、そして白鍵に指を置く。4曲目は「雨雫のワルツ」。雨のじめじめ、鬱屈さを1.2.3と吹き飛ばす、ドロップ感溢れる曲。眠る星座での演奏はジャジーなアレンジ。雨の降るポイント、視点の推移に合わせて打盤の時間、単音和音が変わる。最後は雨が上がって2拍子でスキップ。楽しい曲だ。
ここでゲストの佐藤空(Cello)がステージ中央に登場。新譜『世界の秘密』にも参加したチェリストも加わって、7曲目「ゆらゆら」を演奏。水が麗らかに流れるようなピアノ、チェロの荘厳さ、幻想的な世界の中で、高井息吹は時折声を震わしながら歌い上げる。さらに8曲目「marionette」ではギターが霧がかる森の中で伸びやかにダンス。リズム隊とピアノは協働でシリアスな空気を作る。
楽器の音が全て観客の拍手と入れ替わる頃、眠る星座の3人はステージから姿を消し、高井息吹と佐藤空の2人だけが残る。激情の後の、静かな感情。シンプルな音数が、高井息吹の美しいソプラノボイスを引き立てる。9曲目「今日の秘密」は、愛おしむという感情の一雫一滴を丁寧に抽出した、奇跡の結晶のような曲だ。
続く11曲目「La La La-i」も魔法がかった楽しい曲。そしてホーンセクションがステージを下りると、高井息吹は椅子から立ち上がり、マイクを取るとピアノから離れてステージ中央に立つ。普段のピアノ弾き語りのライブではなかなか見られない光景だ。
「私は、自分にとって特別な出会いや、大切な出会いを絶対に一生ウソにしないで生きていきたいなって思っています。歌い始めてから、眠る星座はもちろん、本当にたくさんの宝物みたいな出会いがあって…こういう出会いに教えてもらった生きる喜びを、私たちと、ここにいてくださっている皆さんが、これからも同じ時代を、同じ時間の中を生きていける喜びを、真っ直ぐに曲にしました。どうか、受け取ってください」
そう前置きし歌い始めたのは「ハローグッバイ」。ギターがリードフレーズを弾き、ベースとドラムが泰然と構える。ピアノレスで高井息吹は自らの思いを全て歌声に込める。暖かい音からもメッセージが伝わり、観客も同じくらい大きな、力強い拍手で応える。
深い深い残響の中、最後に残ったピアノはその空気を少し残したまま、次の波を作り始める。14曲目「青い夢」。ポカリスエットのCMソングに起用された、グングンと深い海に潜るような曲。8分の6拍子というのはダイブそのもの、そしてそれはピアノとの相性が良いなと思う。右手でパシャパシャと高速波打つ表層を表現しながら、左手ではグングン潜る深層を表現する。水は軽くて重い。音楽もきっと、そういうものなのだろう。
さてライブもいよいよ終盤。再び眠る星座がステージに戻ると、彼らと高井息吹が出会うきっかけとなった曲「きりん座」をポップに披露。ファンタジックで楽しいこの曲はバンドサウンドが加わることで躍動感が増し、よりポップな輪郭がくっきりとする。「ソラシドシラソファ、ソソラファ、ソ!」なんて、ライブ後の帰り道に口ずさんでしまったという人も多いのではないか。
そして最後の曲は1stアルバム『yoru wo koeru』の最終トラック、「フィナーレ」。こちらもフィナーレに向けて徐々にボルテージが上昇する様を表現したピアノが極上に心地よい。バンドサウンドに支えられ、中盤高井息吹は再びハンドマイクを手にステージ中央に移動、ボーカルに専念する。最後まで観客を力強く牽引した。
「同じ楽譜で、同じ音階なのに、強さや長さ、込めた思い、弾く人によって全然違う音楽になる」…ピアノに限らず、音楽を始めた幼い頃、誰もが一度はその奇跡に感動しただろう。人間だからこそできる、この魔法的、御伽的世界。いつまでも大切にしていたい世界だ。
M01. うつくしい世界
M02. Carnival
M03. Mr.yellow
M04. 雨雫のワルツ
M05. honey
M06. 瞼
M07. ゆらゆら
M08. marionette
M09. 今日の秘密
M10. skip girl
M11. La La La-i
M12. ハローグッバイ
M13. 水面~水中
M14. 青い夢
M15. きりん座
M16. star light
-encore-
M17. 夜明けまえ
M18. フィナーレ
◆高井息吹 公式サイト
http://www.takaiibuki.com/
◆インフォメーション
2ndアルバム『世界の秘密』
・2017年12月20日(水)~発売中
ライブ出演情報
・2018年05月04日(土)【東京】福生・多摩川中央公園
・2018年05月07日(月)【東京】下北沢440
・2018年05月11日(金)【東京】三軒茶屋グレープフルーツムーン
・2018年05月13日(月)【東京】新代田・FEVER
・2018年05月19日(土)【東京】福生 JESSE JAMES
・2018年05月26日(土)【岡山】青野葡萄浪漫館