演奏

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TEXT:タカシ ミッシェル

 

2017年メジャーデビューが決定し、東名阪ツアーを全公演SOLD OUTさせたクアイフ
3人のファンタジスタが繰り広げた熱きライヴパフォーマンスをレポート!
この日のライヴは大阪市の文化・商業の中心地“キタ”にある梅田Zeelaのオーディエンスフロアは開演10分前にはほぼ満員フルハウス。決して良くなかった週刊天気予報を覆し、好天となったツアー初日は、まるで大阪初のワンマンライヴを祝福しているかのようであった。ファン層は若者が目立ち、クアイフの多様性に惹かれているようだ。
 
ライヴレポートであるはずなのだが、どうしても本記事で伝えたい、いや知ってほしい事が2つある。それはクアイフという独特の響きを持つバンド名の由来と彼らの音楽そのものである。まずは下部の動画を観ていただきたい。

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メンバーは、森彩乃(Vocals & Keyboards:以下)、内田旭彦(Bass:以下内田)、三輪幸宏(Drums:以下三輪)。様々な感想はあると思うが、とてもギターレスの3人編成とは思えない音ではないだろうか?クアイフの音楽はありそうでない音楽性であり、例えるのが難しい。だから彼らの音楽をまず聴いてもらうことが重要だと考えた。筆者が彼らの音楽と初めて遭遇したのは2年前の大阪3マンライヴであった。(参考記事/http://www.beeast69.com/report/107421
 
既にその当時から「メジャーデビューは時間の問題」と思わせるクオリティがあり“なんでこんないいバンドを知らなかったんだ!”と大きな衝撃を受けた事を、今も明確に覚えている。そして次に伝えたいのは、独特のバンド名だ。サッカーファンならばピンと来た人もいたかもしれないが、ベーシストの内田が名古屋グランパスユースでのプレイ経験がある程の本格的なサッカープレイヤーなのである。その内田が敬愛する伝説的サッカー選手ヨハン・クライフ(Johan Cruijff)がバンド名の由来となっている。
 
ヨハン・クライフは選手としても、監督としても世界の頂点に立ち、“トータルフットボール”という近代サッカーの礎となる戦術の体現者でもあった。ステージ上で1人で2役3役とこなす彼らのライヴを観たとき、クライフのサッカーが頭をよぎり、勝手ながら「まるでトータルポップミュージックだ!」と思ったものである。クアイフをレポートするにはこの2点を押さえずしてキックオフはできない。クアイフを知らなかった音楽ファンにも彼らの事を知っていただきたく、誌面を割かせていただいた。

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ではレポートに戻ろう。17時を少し過ぎた頃、地響きのようなSEと共に歓声が上がる。いよいよ主役の登場だ。ステージ中央後部に三輪が鎮座し、ステージ前方上手に内田。最後に肩の開いた衣装で、がステージ前方下手にポジションを取り、ステージ上にクアイフという名のトライアングルが完成する。キックオフチューンの「organism」のイントロが緑と青の照明と共に放たれる。
 
煽りや奇抜なパフォーマンスがなくともオーディエンスは自然と手が上がりクアイフの音楽に呼応する。強烈なディストーションギターがなくとも、打ち付ける滝の様な透き通った力強さがクアイフにはある。が「クアイフですよろしく~♪」と少し余裕を見せながら、すぐさま「hello world」に移行。三輪のドラムスが力強さを増す。2年前の3マンライヴの時より明らかに力感が増している。かなりキーの高い同曲を、絶対音感保持者のはピアノをプレイしながらでも難なく歌い切ってしまう。
 
アタマ2曲で完全に“クアイフィー”の心を掴み、「universe」でプログレバンドらしいドラマティックな展開を見せる。三輪が間奏で思い切り2バスを踏み込むという、彼らの新しい側面が見られる佳曲だ。MCを挟み、深々と雪が降るように、細かくシンバルが刻まれる「snow trveler」もクアイフの新しい魅力が詰まった曲だ。過ぎ去った冬が舞い戻ったかのような感覚に包まれる。今日の演奏はシンセサイザーをフィーチャーし、プログレバンドらしい複雑な曲構成とポップさが魅力の「after rain」。力強い演奏と繊細なピアノのコントラストが美しい「Re:Answer」では、シンプルに“いいサウンドと歌”でオーディエンスの心が揺さぶられ、そして自然と拳が突き上がる光景が広がる。
 
そんなダイジェストを目にして“一人でも多くの人にこのバンドのライヴを体感してほしい”という小さな願いが筆者の心に湧き上がる。そしてエレピとブーミーなベースサウンド交えたインストパートから彼らの初期の名曲「ピラミッドを崩せ」が放たれる。ピラミッドとはまるでステージ上の3人を線で結んだ彼ら自身の様に思えてくる。ダイナミックなのピアノとヴォーカル、ガッツある三輪のドラムス、ゲリラ的に指板を動き回る内田のベース……そこからは“崩せるものなら崩してみやがれ!”と言わんばかりの力強さを感じる。
 
そして三輪がDJ YU!YU!YUKIHIROとなり“ユーユー ユーユー ユーユーユキヒロ!”のコール&レスポンスと軽妙なMCで笑いに厳しい大阪のファンから爆笑をゲットする。さりげなくグッズ紹介も行い、の「ハッピーバースデー内田クン」とDJ YU!YU!YUKIHIROの「ウーウー、ウチダハピバー!」で2日前に迎えた内田の誕生日をサプライズで祝う。そんな和やかな雰囲気から、の「付いてきて大阪!」の声とともにハンドクラップが発生し、テンションの上がった内田もモニターに駆け上がる。アップテンポで流星が夜空を交錯するような「未完成ワールド」。そしての「新曲やります!」というMCに歓声が上がり初披露となる「新曲」がシェイクダウン!ファンも初めて聴いたであろうフロアタムを多用した重たいリズムの真新しい曲にオーディエンスの反応はgood!だ!
 
今まで以上に“POP”さを意識しているように感じられる、今後のクアイフの方向性を示すような新曲の披露である。内田がヨハン・クライフの必殺技であったクライフターンを思わせるように旋回して中央のモニタースピーカーの上に立つ。JAZZYなエレピとリズムが印象的な「重なる」は、ゆったりと渋く聴かせるアレンジ。そして“君が笑った 君が笑った…”のサビが印象的な「Clock hands」へ。POPなメロディにの流麗なピアノにグルーヴィーでハネたリズムが何とも言えなく都会的で、また聴く者全員がハッピーになれそうである。思わず心も身体も躍ってしまう。

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も「歌って~!」とクアイフィー達を煽る。レポートを書いている私は、このハッピーな流れに乗れず少々損をしたような気分だ。のMCに移行し、内田三輪は一旦ステージを後にする。「life」がのソロで披露される。この曲では左手に、より力が込められ、エモーショナルなヴォーカルをより一層引き立ているように感じられた。三輪がステージに戻りドラムソロを披露する。前回の取材時と最も変わったと感じられたのが三輪のドラムスの力強さだ。2年間という時を経て、技術だけでなく、“もっともっと強く叩いても大丈夫だ”というようなバンド内での信頼関係がより高まった結果なのかもしれない。三輪が4つ打ちのリズムで内田を迎え入れインストの「music」。繰り返されるグルーヴィーなベースラインとテクノっぽいシンセサウンドのリピートはyesなどが好きな人にはたまらない展開だろう。この辺りのインストパートでファンを魅了できるところはクアイフがプログレバンドたる所以だ。
 
ストレートなピアノロック「光を探しに」から「ニューワールド」へ。「大阪まだ元気残ってますかっ!」の掛け声で会場の温度が1度上がる。心の中を突っ走っていくようなのピアノ、内田のベースはまるでフレット付きベースを持ったTony Franklinの様にダイナミック、このライヴでスティックを2本折ったという三輪の強烈なヒットはドラムヘッドが割れるんじゃないかというほどだ。ベースのフィードバック音をバックにが「大阪行けますかっ!」とクアイフィー達をアジテーションして会場は軽い地球温暖化状態。「meaning of me」の微妙に転調してゆく展開がとても美しい。
 
そして、ナニワの中心でが叫ぶ「なんだっていいからさ、今夜はあなたたちがいたアカシを証明してください!!」感情をぶつけるようなMCから「Don’t Stop The Music」。まるでハイライトを迎えるかのような雰囲気となり、コール&レスポンスが繰り広げられた。全力がぶつかり合うその光景は感動的だ。モニターの上に立つ内田が押しのけるほどテンションは最高潮だ。内田は言う「梅田Zeelaでは楽しい想いも悔しい想いも沢山してきた。沢山仲間が増えてきた、その事が僕らにとっての誇りだから」と独特の言い回しでファンに感謝の意を伝える。が語り掛けるような神妙なMCから美しいピアノが真骨頂のバラード「good morning」へ。「次ラストです」のMCから「Wonderful Life」へ。
 
ライヴでの演奏は音源よりもドライヴ感がある。力強く、多彩で、感情豊かなこのナンバーは、素晴らしい未来の訪れを天に祈るクアイフの願いのようにも聴こえた。メンバー3人がモニターの上に立ち、天井に頭を付けながらファンの歓声に応え、3人はステージを後にした。そしてすぐさまアンコールがクアイフィーから要求される。数分後、笑顔で3人揃ったクアイフが歓声を背に再登場する。から「見放題にでま~す!」と告知があった。大阪市の心斎橋付近のライヴハウスで同時多発的にライヴが行われ、音楽ファンが多くのライヴを観られるイベントだ。が“ワンマンでファンの人達がどんな曲を聴きたいか”ということをツイートしたところ色々なリプがあったというエピソードが語られ、のピアノが引っ張るある意味歌モノとも言えるミドルテンポでエモーショナルなヴォーカルが印象に残るの「シーソー」が披露される。そして「今日は本当にありがとうございました!ホントにホントにホントにラストです!」と森が目一杯言葉にトラクションをかけラストの「クロスハッチング」を未来へと離陸させる。
 
オーディエンスの声とハンドクラップが上昇気流かのようにクアイフの推進力となる。「未来はきっとこんなもんじゃない まだまだ色付いて変わるよ 明日を変えるよ・・・」森は力強く言葉を放ち続ける。“世の中を批判するわけでもなく、直接ガンバレ的なメッセージを投げかける”わけでもない。ポジティブで比喩的表現が多いが、「聴く者が各々のシチュエーションと重ね合わせ、想像力を膨らませる事ができる」という部分がクアイフ流のメッセージの伝え方ではないだろうか。クアイフの3人はロスタイム終了前の数十秒かのように渾身の力をふり絞り、約129分の未来飛行を
終え着陸する。会場から惜しみない拍手が送られ、が「写真撮りた~い」と緊張から解き放たれたかのようにおどけてみせる。の「たこやき~」の掛け声と共にバンドメンバー、クワイフィーが写真に収まり、大阪初ワンマンの目撃者として公式記録だ。

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◆Setlist
M01. organism
M02. hello world
M03. universe
M04. snow trveler
M05. after rain
M06. Re:Answer
M07. ピラミッドを崩せ
M08. 未完成ワールド
M09. 新曲
M10. 重なる
M11. Clock hands
M12. life
M13. music
M14. 光を探しに
M15. ニューワールド
M16. meaning of me
M17. Don’t stop the music
M18. good morning
M19. Wonderful Life
M20. シーソー(encore)
M21. クロスハッチング(encore)
◆Qaijff Official Website
http://www.qaijff.com/
 

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バンドスタッフから「ツアー初日という事もあり、前半はメンバーに緊張が見られた」というような事も耳にしていた。終わりよければ全てよしではないが、バンドメンバーが緊張しているような印象は、最後部でレポートしていた筆者にはまったく感じられなかった。トレンドを逆撃ちするバンドのスタンスは、決して流行り廃りに影響される事はないだろう。そしてクロスハッチングの歌詞にあるように「出逢っては、はぐれて はぐれては、出逢う 線と線とが交錯する奇跡 ここに見つけた」そんな充実感を携えてクワイフィー達は各々の未来に向かって、また歩みだした……。

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