演奏

TEXT:まりな

 
少女が大人になってゆく時間というものはなによりも危うく美しいものだと思う。その過程には綺麗事だけでは語れないものもあるはずだ。孤独な夜、自責、秘密。そんな大人のエッセンスが含まれることによって、より一層その深みと魅力は増していく。
 
吉澤嘉代子のライブは曲、言葉、ステージ、すべてをまとめて一つの命のようだ。前回の「箒星ツアー」が可憐で無垢な少女だったならば、今回のツアーは少女がロマンチックな恋愛を経験して大人になった姿に重ねることが出来る。響き渡る歌には力強さが宿り、妖艶さすら漂う。ちょっと見ていない間にグンと女性らしくなった女の子に会ったときのような、どこか観ているものをドギマギさせるライブだった。そんな「秘密ツアー~8都市をめぐる秘密公演~」から2015年12月17日(木)の東京・恵比寿LIQUIDROOMのステージをレポートしたい。
 
吉澤嘉代子 メンバー:
吉澤嘉代子(Vocal & Guitar)、伊澤一葉(Keyboard)、弓木英梨乃(Guitar)、Shige(Bass)、神谷洵平(Drums)
 

 


怪しげなSEの音楽と共に、全員白いシャツ姿のバンドメンバーが登場すると客席から大きな拍手が起こった。一曲目「ユキカ」のイントロが流れ、鳴り響く手拍子の中、赤い耳飾りに、赤い襟の付いた薄いゴールド色のワンピースを着た吉澤が登場。毎回、衣装はレトロなワンピースであることが多く女子のファンにとっては彼女のファッションも楽しみの一つだろう。
 
ステージ背の両脇には赤と緑が映えるカーテン、中央には一つの額縁が飾られている。ステージフロアには一本の街頭とベンチがセットされており、まさに10月にリリースされたミニアルバム『秘密公園』の世界観が再現されていた。
 
曲に入った途端、その第一声から今までの可愛らしい少女の雰囲気を脱ぎ捨てた力強さを感じる。体の真ん中に一本芯が通ったようにまっすぐ立つ姿はこれからのライブが期待以上のものになる予感をさせた。間奏で吉澤がフロアタムを力いっぱい叩くと、ドッドッという音がまるで恋をして激しく鳴る心臓の鼓動のように会場中に響く。
 
「みなさんお待たせしました!秘密ツアーへようこそ!」そう言うと、The Supremes風ラブソング「キスはあせらず」に突入。赤いタンバリンをたたく姿、歌っている時の愛らしい手振り、少し拗ねた表情、そしてトドメの「もう、やめてって言っているでしょう!」の台詞で、客席は吉澤持ち前のキュートさに完全にメロメロだ。
 
その後トレードマークの白いギターを持ち、間髪入れずに人気曲「未成年の主張」を披露。歌い終わった後ギターを置き、くるくると回りながら踊ると、長丈のスカートがゆらゆらと翻ってその姿がなんとも可憐である。
 
曲中に予想外のことが起こるお楽しみの楽曲「チョベリグ」では吉澤がピンク色のハート付きサイリウムを手に持って客席に降り、会場中を後ろの方まで歩き回る。「そくてん!くるくる!」とコール&レスポンスに合わせ、客席もサイリウムを上下に振りながら盛り上がっていく。ちょっと無理のある長いコール&レスポンスをさせたり「まだ私に触ってない人~?女の子だけね!」と小悪魔的な発言をしてみたりその自由奔放さには思わず頬が緩んでしまう。客席にもあたたかい笑いとハッピーなムードが広がっていた。
 
ポップな曲が続くと今度はガラリと雰囲気を変えて初期の名曲「化粧落とし」。ギターをかき鳴らし、声をしゃくりあげて歌う。どこか昭和歌謡の風情があるこの曲はステージの赤いカーテンがよく似合い、無意識な狂気がじわじわとにじんでくるような曲だ。
 
情熱的なピアノとベースの低音で始まった「うそつき」、不毛な恋愛を感じさせる歌詞の「がらんどう」と切ないラブソングが続くと、その表情からは今までにないほど大人びた色気が感じられた。
 
「子供のころは使えていた魔法を取り戻したいと思って書いた、大事な曲です。」そう言って私小説的な楽曲「ストッキング」を披露。MCではふわふわした雰囲気なのに曲に入るとまるで女優が役に入った時のように目つきもオーラもすっかり変わってしまうところが不思議な魅力だ。胸に手を当てて自分に言い聞かせるように歌っている姿が印象的だった。
 
零れ落ちる滴のようなキーボードの音と遠くからうっすら聞こえる鈴の音。「泣き虫ジュゴン」が始まるとステージは青いライトに染まり幻想的な雰囲気に。泣き虫で弱い自分自身をテーマに書いた曲だが、以前よりも感情を前に前にと歌う姿からは、弱さを振り払おうともがいている様子をも感じさせる。
 
ピックをぽいと放ち、ステージを去る吉澤。しかしバンド演奏は続き、だんだんとその音は激しさを増していく。ファジーなギターの音色が泣いている海のように高らかにうねりをあげて鳴り、曲が終わると一瞬間が空いた後長い拍手が起こった。
 
『秘密公園』のリード曲「綺麗」のイントロが流れると、MVでも着ていたピンク色のドレス姿に衣装チェンジした吉澤が再登場。サビでは吉澤と観客が一緒になってサイリウムを片手に振付けを踊る。会場はピンクの光とハートでいっぱいになり、ステージのカーテンに施されたイルミネーションの電球の光も相まって、一気にロマンチックなムードになった。
 
ドレスにサイリウムを持ってゆらゆらと踊りながら歌う姿はディズニーに出てくるお姫様のようでもある。「一度だけ繋いだこの手もいつかはしわしわになるの」魔法みたいにキラキラと輝いた時間もいつかは過去になっていくけれど、私のことは記憶の中で一生綺麗だと思ってくれていたら良いという可愛らしい曲だが、どこかほんのりとした呪詛のようなものも感じられる曲だ。
 
アダルトな雰囲気のジャズピアノの音色にのせ、吉澤の一人寸劇が始まった。うっとりとした表情で「昨日あなたの夢を見たの 上野動物園に行った夢よ」と言う。そのアンバランスさに客席は大爆笑。大人っぽくなったかと思えば時たま覗く無邪気さやあどけなさがまた彼女の魅力でもある。「あなたは言った、サルの毛は嫌い」「じゃあ私の秘密は教えられないわね」という語りの後で吉澤の曲の中で一番の問題曲とも言える「ケケケ」を披露。ハンドマイクで時たま、いたずらにマイクのコードを持ったりしながらステージを歩き回り歌う。今までで一番一体感のある振付けとコール&レスポンスで客席は大盛り上がりだ。
 
「あーもう終わっちゃうよ!」と最後の曲「必殺サイボーグ」に突入すると壊れたロボットのように頭を振り回転しながらタンバリンを打つ。曲中でメンバー紹介とそれぞれのソロパートを披露。と、突然どこからかバズーカ砲を持ち出してきて客席に向け発射!ぎらぎらの紙テープが舞い、歌い終わるとバズーカ砲を肩に担いだまま颯爽とステージを後にした。
 


本編がおわって大拍手ののち、すぐさまアンコールの手拍子と「嘉代子コール」が起きる。「アンコールありがとうございます」と吉澤が再登場し、いつもの肩透かしを食らうようなMCで会場は和やかなムードになる。ユキカのMVも手掛けた映像作家・外山光男デザインのツアーグッズを紹介、そして初のホール公演となる東京国際フォーラム ホールCでのワンマンライブ開催が来春に決まったことを発表し、客席からは大拍手と「おめでとう!」の声が響く。
 
アコギのやさしいアルペジオにのせて始まったのは「東京絶景」だ。まっすぐに立ち、大切なものを救い上げるように優しく歌う。サビの高音が緩やかに広がって会場中の隅々にまで染み渡っていき、うっとりとした気分にさせる。曲が終わると深々とお辞儀をして手を振りながら退場した。
 
しかし鳴り止まないアンコールの手拍子に吉澤が一人でまたステージに上がり、アコギ一本で新曲「残ってる」を弾き語りで歌う。「改札はよそよそしい顔で朝帰りを責められた気がした」「私まだ昨日を生きていたい」今までにはないほど退廃的なにおいのする、リアルな歌詞のラブソングだ。
 
「ありがとうございました」の声に大拍手が起きる中、吉澤が投げキッスをしながらステージを去り、この日のライブは幕を閉じた。
 

MCで吉澤が「わたしってこんな人間じゃないのに」という言葉をポロッとこぼした場面があった。もしステージを降りた彼女が少し自分に自信のない等身大な女性だったとしても、ステージの上で歌い始めた瞬間、彼女は魔法がかかったように煌めきだす。それはたとえば魔女っ娘アニメで、普段は冴えない女の子が変身をすると色んな魔法が使えるようになる事にも似ているかもしれない。そんな夢のような瞬間を吉澤嘉代子というアーティストは現実に見せてくれる。だからこそリスナーは彼女に憧れを持って、そして応援したくなるのだと思う。
 
来年2月17日には2ndアルバム『東京絶景』のリリースが決定し、ツアーの発表もされ来年はますます注目が集まりそうな彼女の活躍が今後も楽しみである。
 

◆セットリスト
M01. ユキカ
M02. キスはあせらず
M03. 未成年の主張
M04. チョベリグ
M05. 化粧落とし
M06. うそつき
M07. がらんどう
M08. ストッキング
M09. 泣き虫ジュゴン
M10. 綺麗
M11. 真珠
M12. 運命の人
M13. 美少女
M14. ブルーベリーシガレット
M15. ケケケ
M16. 必殺サイボーグ
-encore-
E01. 東京絶景
E02. 残ってる(新曲)
 
3rdミニアルバム『秘密公園』
・2015年10月07日(水)発売
◆吉澤嘉代子 オフィシャルサイト
http://yoshizawakayoko.com/
 
◆吉澤嘉代子 モバイルファンクラブサイト『ほうきの会』
https://fc.yoshizawakayoko.com/pages/fanclub
 
 
◆ライブ情報
『四半世紀ガールライブ』
・2016年01月27日(水)【兵庫】神戸VARIT.
 w/ 植田真梨恵/関取花
 
吉澤嘉代子 2016年全国ツアーの東名阪決定!
・2016年04月27日(水)【愛知】名古屋市芸術創造センター
・2016年04月29日(祝)【大阪】大阪ビジネスパーク円形ホール
・2016年04月30日(土)【東京】東京国際フォーラム ホールC

 
 
◆リリース情報
2ndフルアルバム『東京絶景』
・2016年02月17日(水)発売

 

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【レポート】吉澤嘉代子 箒星ツアー’15
http://www.beeast69.com/report/131031
【連載】新譜るLIFEダイアリー 吉澤嘉代子『箒星図鑑』
http://www.beeast69.com/serial/simple/122507