演奏

TEXT:まりな PHOTO:齋藤明

ジャックス早川義夫は著作『ラブ・ゼネレーション』の中でこんなことを言った。「ほんとうにいいものを読んだり、聞いたり、見たり、ふれたりした時は、すぐさま拍手なぞできず、絶対、間があるはずだ。」まさにこの言葉の通り、演者の歌に客席は完全に惹きこまれ、聴き入り、曲が完全に終わってからも余韻で体の芯からしびれて動けなくなってしまう。そんな場面が見られるライブだった。
 
妄想系個性派シンガーソングライター、吉澤嘉代子が1stフルアルバム『箒星図鑑』を引っ提げて全国5都市で行った『箒星ツアー’15』のファイナル公演が5月16日(土)、東京・赤坂BLITZにて行われた。
 
若い女性のシンガーソングライターというと男性客の割合が多いイメージだが、この日会場を見渡すと吉澤と同世代の女性客も多く、そのほか魔女の宅急便のキキの格好をした10代の女子や子供連れ、ご年配の方もちらほら見え、幅広い年齢層から支持されているのだと感じた。
 
開演までの間、会場には森昌子の「せんせい」や海援隊の「贈る言葉」など学生時代を彷彿させる歌謡曲が流れ、ステージ上にもバンドの楽器セットの他、学校で使っていた勉強机とイスが置いてある。一体どんなステージングが繰り広げられるのか、期待感とどこか懐かしい気持ちで胸を膨らませながら開演時間を待つ。
 
箒星バンド メンバー:
吉澤嘉代子(Vocal & Guitar)、伊澤一葉(Keyboard & Guitar)、弓木英梨乃(Guitar)、ミゲル(Bass)、松田頌平(Drums)





暗転し、全体がしずまりかえると、囁くような吉澤の声が会場中に響く。登場のSEは「ストッキング」のアコギ一本の弾き語りの音源だ。学校のチャイムが鳴ったのち本日のバックバンド「箒星バンド」のメンバーに続いてセーラー服風のワンピースを着た吉澤が登場し、トレードマークとなりつつある白いアコスティックギターを持つとライブがスタートした。
 
1曲目は、吉澤の楽曲の中でも特に人気が高い3分間ポップス「未成年の主張」。サビが終わると「みなさん吉澤嘉代子の箒星ツアーへようこそ!一緒に楽しんでくれますか?」と客席を煽ったことで、どこか固く緊張していた会場のムードがやわらぎ、それぞれが曲に合わせ少しずつ体を揺らし始めた。華奢な体にギターを持ったまま、くるくると動き回る姿が愛くるしく、つい顔が綻んでしまう。




次の曲「美少女」では客を立たせ、大きな手拍子が起こる。これほど大きな会場でも手拍子のタイミングはバッチリで早くもステージと客席が一体となった。間髪入れずギターを置き、ハンドマイクで次の曲「恋愛倶楽部」が始まった。左右にステップを踏んで歌う姿や、曲調はまるでアイドルのようでもあり、しかし振りに惑わされることなく、しっかりと歌い上げるところはシンガーとして確かな実力と力量を持つ吉澤ならではの術だ。あまりにも華麗なステップと指の先までしなやかで美しい動きは振り付けというより、舞っていると言った方が近いかもしれない。
 
曲が終わると突然「はーい、今日の恋愛倶楽部終わりだよー。ちょっと、ここ一年集まって!」と、部活動の先輩の口調で一人寸劇が始まった。客席からは笑いが漏れ一気に和やかな空気になる。「何が恋愛倶楽部だよ。笑っちゃうね」と毒づいたかと思うとおもむろに取り出したサングラスをかけ、「ブルーベリーシガレット」が始まった。伊澤一葉は鍵盤からギターに持ち替え、芸達者なプレーを披露。箒星バンドのコーラスワークも抜群で、CDの音源よりも迫力と躍動感がありバンド映えのする曲だと思った。吉澤は鞄からブルーベリーシガレットをとりだすと客席にめちゃくちゃに投げる!



少しの間のあと、シンプルで歌詞も単純ながら完璧なポップス「チョベリグ」が始まる。吉澤自身もだいぶ緊張がほぐれてきたのか歌で遊ぶ余裕で出てきているようだ。と、ステージを降り客席に乱入!「そくてん!くるくる」と客にコール&レスポンスを求めながら客席のなかをくるくると素早く歩き回る。なぜか途中からコール&レスポンスが「なまこ壁」になり、ステージにもにもレスポンスを求め、メンバーもタジタジになる。奇天烈なことを言い出しても吉澤だからこそ許せるし面白い。
 
嘉代子って最近調子のってない?」「懲らしめてやろうよ」会場中に響く悪口の声に思わず耳をふさぐ吉澤。7曲目は女子のなかよしグループと悪口のグルーヴをかけている曲「なかよしグルーヴ」だ。今までとはまた違うジャジーな楽器の音に、ファンク調のリズムと歌がのる。ステージを歩きながらラップも披露。吉澤の声はファンクやラップ調の曲にも合う力強さを持っている。「ひとりぼっちになりたくない!」の絶唱には思わず鳥肌が立った。アウトロでは弓木英梨乃がファズの効いたギターソロをぶちかます! あまり動きはせず、直立でテクニカルなプレーを披露する様が逆に迫力があってクールだ。



 


ここで衣装チェンジ。襟にスパンコールのついた緑のワンピース姿で再登場し、机に伏せて泣き真似をしたと思うと次の曲「キルキルキルミ」が始まった。この曲は、ただただ自責の気持ちを綴り、ダメな自分への罰として前髪を切ってしまうというアルバムのなかでも少し異質で、個人的には特にお気に入りの曲だ。女子にとって前髪を切るというのはどこか自分を変えたいという気持ちの表れであり、ちょっとした自傷でもある。それが上手く表現できている曲だと思う。間奏では少し緊張したような横顔を見せ、机の上に置いてあった小さな鉄琴を披露する。しんみりとした雰囲気で曲が終わると大きな拍手が起こった。
 
ドラムのカウントで次の曲「逃飛行少女」が始まる。「あなただけに教える 今夜私は旅立つよ」今まで以上に一句一句、丁寧に歌い上げる様はこのライブがターニングポイントに差し掛かったことを感じさせる。
 
「いつものあの嫌な馬鹿らしい学校で そこまで読んでふと思う これは私の物語だ」本を読み上げるようなしみじみとした口調でそういうと、怪しい雰囲気のまま「ぶらんこ乗り」に突入した。ほんのり薄暗いライトのなか、ウッドベース、ピアニカ、アコースティックギターの音とドラムのロール音が絡み合う演奏は先ほどとは水を打ったようにガラリと雰囲気が変わり、まるで本当にサーカスの舞台を観にきているかのような錯覚をした。終盤、アカペラの場面があり、さっきまでの少女のような可憐さは消え、どこか哀愁を漂わせながら今にも消えてしまいそうな儚さをも含んだ声で歌う。アウトロではバンドの音がだんだん大きく激しくなっていき、その迫力に思わず体が動かなくなる。

ステージが青のライトに変わり「泣き虫ジュゴン」になると、会場の壁に泡のような丸いライトが映し出され、まるで海の中にいるかのような演出になった。まだ十代だったころに作ったというこの曲は少女特有の繊細さと潔癖を感じさせる歌詞が美しく、どこか吉澤の本心が表れている曲だと思う。遊び心のある歌詞で明るいポップスを歌う吉澤が前に来るが、その裏の「泣き虫ジュゴン」や「キルキルキルミ」など、嫌いな自分を変えたいという感情が表れた曲こそ彼女自身の神髄な気がして、切なげな表情で歌う彼女の顔が心を打つ。曲が終わったあと、少し間が空き、バラバラに拍手が起きた後、最終的に大きな拍手になったのがとても印象的だった。
 
「私は魔女になる修行に夢中です。」「大人になってもし迷うことが来たら思い出して。じぶんを信じる魔法を。」最初は吉澤の声で、途中から子供の声で手紙を読む声が会場に響く。今回のアルバムのリード曲「ストッキング」だ。ここまで観て、このライブは最初は少女時代、そしてだんだんと大人になっていく一人の少女の姿を彷彿させるような構成になっていたことに気づく。嫌な学校の呪縛からとかれ制服を脱ぎ、自分と向き合う期間を経て、大人になった少女は子供のころに使えた、たった一つの魔法『自分を信じる』心を思い出そうとする。もう戻れない時間に対する未練、取り戻したいあの頃感じた根拠のない自信。自分自身とも重なる部分があり、胸が苦しくなった。

今までで一番大きく長い拍手が終わると、友人に語りかけるような歌い方で「雪」を歌い始める。「春が来たなら雪もとけてここは涙の川になる」心が温かくなるような歌い方とメロディーだが、エンドロールに感じる切なさも一緒になってこみ上げる。「ありがとうございました。吉澤嘉代子でした」と言うとステージを後にした。
 
しかし間髪入れず、アンコールの手拍子は起き、さらに「嘉代子嘉代子!」と嘉代子コールが起きる。最初は男の声だけだったのが、女子も負けじとコールに参加し、最終的には男声、女声と分かれて交互で嘉代子コールが起きる。

「アンコールありがとう」と吉澤が登場。本編はほとんどMCがなかったが、ここからはいつもの吉澤の力の抜けたMCが炸裂し、客席もリラックスした笑いが起こる。「ライブしてるのにバック持っちゃいけないんですけど・・・」と今回のツアーのオフィシャルグッズの紹介を始めた。箒星キーホルダーなど個性的なグッズが多い。
 
伊澤をステージに呼び込み「東京は星が見えないけど夢を持った人が集まっているから、その人たちの星で東京の空もキラキラ(している)という曲です」と言い「東京絶景」が深いリバーブのかかったピアノの前奏で始まった。先ほどの和やかなMCから一変、一気にロマンチックなムードに包まれる。「東京は美しい うたかたのプラネタリウム」高音の多いこの曲を、さらに繊細で漂うような裏声でしっかりと歌い上げた。




他のバンドメンバーを呼び込み「実は私は今日、箒星バンドのみなさんにキャッチコピーを付けてきました!」とメンバー一人一人に付けたキャッチコピーとともにメンバー紹介。「これから先言えるかわからないので・・・」とステージに上がらないツアー同行スタッフの紹介もした。そのキャッチコピーがまた秀逸で、不思議であり、そんな無邪気なところも吉澤の欠かせない魅力の一つだ。
 
昔からの人気曲「らりるれりん」を披露したのち事前に募集した吉澤宛ての相談、質問を読み上げるコーナー「生らりるれ理論」が始まった。ここでも奇想天外な妄想じみた受け答えをし、会場の笑いを誘う。
 
「最後に歌う曲はまだCDに入っていない曲なんですけども」と新曲「ひゅー」を歌う。恋をする自分を自分自身の胸が「ひゅーひゅー」とはやし立てる声が鳴りやまないという、不器用で可愛らしい恋愛の曲で締めた。
 
舞台を下がってもアンコールの手拍子と嘉代子コールは鳴りやまず、二度目のアンコールで、今まで俯瞰した歌詞の多かった彼女が自分自身を初めて切り取って書いたという曲「23歳」を弾き語りで披露し、ライブは終演した。
 
「ここからはもう大人の世界 言い訳きかない大人の世界」




「魔女修行」や「妄想系」といったエキセントリックなイメージが先行している彼女だが、今日ライブを観て、これからはさらに本格的な女性シンガーソングライターとして活躍の場を広げていくことを確信した。
 
少女時代を経て大人の世界に足を踏み入れた吉澤が今後どんな世界を見せてくれるのか、今後のCDリリースやライブ告知がなかったことで余計想像がつかない。わくわくした気持ちのまま、その時を待とう。
 

◆セットリスト
M01. 未成年の主張
M02. 美少女
M03. 恋愛倶楽部
M04. ブルーベリーシガレット
M05. チョベリグ
M06. ケケケ
M07. なかよしグルーヴ
M08. キルキルキルミ
M09. 逃飛行少女
M10. ぶらんこ乗り
M11. ちょっとちょうだい
M12. シーラカンス通り
M13. 泣き虫ジュゴン
M14. ストッキング
M15. 雪
-encore-
E01. 東京絶景
E02. らりるれりん
E03. ひゅー
-double encore-
E01. 23歳
◆吉澤嘉代子 オフィシャルサイト
http://yoshizawakayoko.com/
 
◆吉澤嘉代子 モバイルファンクラブサイト『ほうきの会』
https://fc.yoshizawakayoko.com/pages/fanclub
 
◆ライブ情報
・2015年05月31日(日)【新潟】みなとまち海浜公園夕陽のドーム
・2015年06月18日(木)【東京】渋谷Mt.RAINIER HALL
・2015年06月20日(日)【東京】渋谷TSUTAYA O-EASTなど ※『YATSUI FESTIVAL! 2015』への出演

 
◆リリース情報
吉澤嘉代子『箒星図鑑』
・2015年03月04日(水)発売

 


 

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