演奏

上田現追悼ライブ『GEN Chang Night Vol.1』

TEXT:丈岡はじめ

80年代から90年代にかけて大ブレイクし、今なお人気を博しているバンド、LÄ-PPISCH。そのキーボーディストであり、プロデューサーやソロアーティストとしても活躍していた上田現。僕は世代的にずれているので、LÄ-PPISCHの音楽はリアルタイムで聴いた記憶はない。初めて上田現のことを知ったのは大ヒットした元ちとせの「ワダツミの木」のプロデューサー、作者としてだった。その曲は僕の大のお気に入りとなり、当時は毎日のように聴いていた。

時が経つのは早いもので、その上田現が他界してからもうすぐ2年が経とうとしている。そんな時、川崎クラブチッタで上田現追悼ライブ『GEN Chang Night Vol.1』が行われるという報せが僕の元に届いた。2DAYS、1日目は「〜from the solo works〜」ということでソロ時代の曲を中心にELE上田現バンド)が出演。2日目は「〜 all song of La-ppisch〜」ということでLÄ-PPISCHが演奏するという。

2日ともできれば観たかったのだが、スケジュールの都合で1日目を観ることにした。冬真っ只中の2月の終り、小雨が降り身を切るような寒さの中、僕は会場に向かった。会場につくとすでに入り口前はファンが長い行列を作っていた。割と高めの年齢層かと思っていたが若い人も多い。みんなこれから始まるステージの期待で外の寒さなど微塵も感じていないようだった。

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PM7:00過ぎ、会場はもうファンで一杯だ。まずは上田現のソロ時代のバックバンドであるELEが登場。メンバーは奥村 大(Vocal & Guitar)、石川具幸(Bass)、平田直樹(Trumpet)、増井朗人(Trombone & Piano)、杉野寿之(Drums & Percussions)、土方幸徳(Percussions & Drums)、松本大英(Manipulator)の7人。

どこか懐かしい町並みを思い出させるおだやかなトランペットのメロディーの「始まりの空」でステージは静かに始まった。続いて上田現の録音されたボーカルがフィーチャーされたファンクネスな「宇宙犬ライカ」。ここで1人目のゲスト杉本恭一LÄ-PPISCH)が黒いハット、サングラス姿で登場、うねるようなベースソロから始まる「かごめ」で熱いボーカルを聴かせる。続いて「大陸ラーメン」と2曲を歌ったところで彼は一旦退場、ステージ上にはELEのメンバーだけが残る。

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再び上田現のボーカルで「WORLD」を演奏した後、「お祭り」「ファウル」「北京の蝶」の3曲では奥村 大が味のあるボーカルを披露。そしてクラシックのピアノ曲を思わせるインスト「野球少年」と続く。曲が終わると間髪をいれず2人目のゲストMAGUMILÄ-PPISCH)が登場、ヒット曲「ワダツミの木」を歌う。後に上田現自身もセルフカバーしたこの曲は元ちとせのオリジナルとは異なり、MAGUMIの芯のある声で歌われるとまた違った魅力がある。

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続いて叙情たっぷりに「さくらさくら」を歌った後は「現ちゃんがとっても愛した歌姫」とMAGUMIの紹介で、3人目のゲスト元ちとせが赤いワンピース姿でステージに登場。そしてあの独特の声で「恐竜の描き方」「コリアンドル」の2曲を歌った。どこか異国を思わせるこれらの曲は元ちとせの声と相まって不思議な世界観をそこに映し出した。そして再び上田現のボーカルで「もう会えない人に」、奥村 大が歌う「ラルゴ」とステージは進んでいく。

上田現のボーカルの曲では、メンバーもファンもあたかも上田現がそこにいると感じているようだ。それは幻でもなんでもなく確かな「リアル」なのだろう。次ぎの「夕焼けロック」では再び杉本恭一が登場。これまでと一転、軽やかな8ビートのロックナンバーだ。そして激しいギターのカッティングとブラスリフが鳴り響くとMAGUMIも再登場。杉本恭一と共に「いっそのこと!」で激しく歌う。ステージ上には熱気が満ち、客席にもその熱は伝わっていく。

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ハードなスカナンバー「28才」ではMAGUMIがトランペットを吹きまくり、ファンと一緒に「燃えろ燃えろ」の大合唱。客席もステージもいよいよ沸点が上がってきた。ここで2人は退場し、ステージにはELEのメンバーだけが残った。緊張しながらMCをする奥村 大が「現ちゃんのダーンという曲を最後に2曲やります」ということで「僕の思いは目的もなく月に刺さる」を歌い始める。やるせない想いが伝わってくる切ないナンバーだ。そしてゆっくりしたビートが壮大な空を思わせる「キコエルカイ」を演奏しメンバーはステージから退場、ライトも落ちた。

もちろんこれで終わるわけはない。ステージが無人になった後も客席からアンコールを求める手拍子が鳴り続き、それは段々大きくなっていく。ゆっくりと熱気があたりを包み大きくなっていくのを僕は感じていた。数分たったころだろうか、ELEの7人がアンコールに応えるためステージに登場。上田現のボーカルでゆるやかな河の流れのようなナンバー「怪鳥ロック」が始まる。そしてアコギとウッドベースが重いリズムを刻む雄大なナンバー「Atlas」へ。ボーカルはMAGUMI。いよいよ今夜のステージも終りが近づいてきた。

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ここで杉本恭一元ちとせも加わりステージには全員が揃った。最後はもうすぐ迫った上田現の誕生日(3月3日)を祝って全員で「Happy Birthday」を歌う。曲名と裏腹にどこか悲しい感じがするナンバーだが、その中にも何か清清しいものがある。そしてピアノとピアニカの音に包まれながら曲は静かに終わった。本日のステージも終了だ。帰りにファンでごった返すロビーの中を抜けていく時、誰かの「今まで観たライブで一番ぶっ飛んでいた」という声が耳に聞こえた。その声に代表されるかのように周りのファンの表情はみな幸せそうだったのを覚えている。

MCで「僕たちがステージに立てる限りはこれをやって行きたいと思います」と語ったMAGUMI。ファンの気持ちも同じだろう。どんな形でもいいからこんなライブをできるだけ長く続けていって欲しいものだ。それは毎年1回、上田現に逢える日なのだから。

Photo Gallery(写真をクリックすると拡大します)
【上田現 公式サイト】
http://www.uedagen.com/

【LÄ-PPISCH 公式サイト】
http://la-ppisch.com/

【元ちとせ 公式サイト】
http://www.office-augusta.com/hajime/

【セットリスト】
01 始まりの空
02 宇宙犬ライカ(Vocal上田現)
03 かごめ(Vocal杉本恭一)
04 大陸ラーメン(Vocal杉本恭一)
05 WORLD(Vocal上田現)
06 お祭り(Vocal奥村 大)
07 ファウル(Vocal奥村 大)
08 北京の蝶(Vocal奥村 大)
09 野球少年
10 ワダツミの木(Vocal MAGUMI)
11 さくらさくら(Vocal MAGUMI)
12 恐竜の描き方(Vocal元ちとせ)
13 コリアンドル(Vocal元ちとせ)
14 もう逢えない人に(Vocal上田現)
15 ラルゴ(Vocal奥村 大)
16 夕焼けロック(Vocal杉本恭一)
17 いっそのこと!(Vocal杉本恭一)
18 28才(Vocal MAGUMI)
19僕の思いは目的もなく月に刺さる(Vocal奥村 大)
20 キコエルカイ(Vocal奥村 大)
アンコール
21 怪鳥ロック(Vocal上田現)
22 Atlas(Vocal MAGUMI)
23 Happy Birthday(Vocal全員)