特集

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TEXT & PHOTO:鈴木亮介

12月になり、いよいよ就職活動が本格的にスタートする。本誌BEEASTでも連載・ロック社会科見学の記事を通じて様々な仕事を紹介してきたが、一口に「音楽業界」と言ってもその業態は実に多種多様。「音楽に携わる仕事がしたいけど、どのような仕事があるのかわからない」という人も少なくないように思う。
 
そこで今回は、国内最大級の音楽事業会社であるソニーミュージックグループが9月2日から6日にかけて行ったインターンシップに密着取材!そのプログラムの模様をレポートすることで、音楽業界の様々な仕事の内容と魅力、求められる能力などをご紹介したい。音楽はもちろん、広くエンタテインメント分野に関心のある学生の就職活動の一助になれば幸いである。
 
ソニーミュージックグループが学生を対象にインターンシップを開催するのは今年で2回目。以下のような内容で、大学3年生を対象に募集が行われた。
 

Sony Musicグループ インターンシップ2013
~エンタテインメントビジネスのテーマパーク!刺激的な仕事に出会える5日間!~
ソニーミュージックグループが持つ様々なエンタテインメントビジネスを、それぞれのプログラムに分けて学生の皆さんに学び・体験していただくインターンシップ。これまで採用ホームページの文字による説明だけではなかなかお伝えするのが難しかったソニーミュージックグループのビジネスを、現場で活躍する各セクションのスペシャリストによるオリジナルプログラムで体験していただく、いわばソニーミュージックグループのビジネステーマパーク!バンドのA&Rや、音楽プロデュースの体験などなど!他では得られない楽しさとワクワクが盛りだくさんなソニーミュージックグループの刺激的な仕事に出会える5日間を体験していただきます。
 
~ねごとの未発表デモ曲を聴いて、そこから新曲プロデュースをする体験も!~
刺激的なプログラムがもりだくさんの今回のインターンシップ。なかでも音楽分野に興味がある学生にとってスペシャルな体験になりそうなのが、人気ガールズバンド「ねごと」の未発表音源を聴いてそこからその曲をどのように売り出すか考えていく、まさにプロデュースを疑似体験できるプログラム。ねごとの担当A&Rから仕事の流れを教えてもらい、アーティストとともに作品を作り、世に売り出す醍醐味について生の声を聞くことができます。参加者の考えたプロデュース企画が、実際採用されることもあるかも??しれない、エキサイティングな内容となっている。
 
■経緯
2013年8月 7日 募集開始
2013年8月16日 応募締め切り
 書類選考、面接を経て参加者決定
2013年9月2日(月)~2013年9月6日(金) 実施



8月7日から16日の間に募集を受け付け、応募総数は234通。そこから書類選考を経て61人に絞り、面接を実施。参加者の24人が決定した。参加者はいずれも首都圏の大学に通う4年生だ。それでは、インターン全5日間の模様を早速ご覧頂こう。
 

【1日目】 9月2日(月)
 オリエンテーション/ソリューションビジネス
オリエンテーション

 
初日はまず、今回のインターンシップを統括するソニー・ミュージックアクシス人事業務グループのスタッフより挨拶と趣旨説明を行い、次いで参加者24名が1人2分ずつ自己紹介を行った。
 
今回のインターンシップに参加するのは首都圏の大学に通う3年生が中心。動機や目指す道は様々だが、24人に共通するのは前向きな姿勢と明るさ、そして抜群のコミュニケーション能力。
 
24人ほとんどが初対面同士ながらあっという間に打ち解けたようで、初日のプログラム終了後には早くも参加者たちで食事会を開催したそうだ。
 

◆参加者インタビュー
植村栗実さん & 中島悠さん

 

---今回インターンに参加したきっかけを教えてください。

 
中島:インターンシップサイトで見つけました。小さい頃から音楽が好きで、「SCHOOL OF LOCK!」などのラジオを聴いていて、エンタテインメント全般に興味があったので応募しました。
 
植村:私はCDショップでアルバイトをしていて、レコード会社の仕事に興味がありました。それで色々調べていたら去年のインターンのサイトを見つけて、今年も募集するということで応募しました。
 

---特に楽しみにしていることは何ですか?

 
植村:レコード会社のお仕事全般を知れるのを楽しみにしています!
 
中島:私は劇場の案内係のアルバイトをしているので、ハコのお仕事については色々勉強してきましたが、やっている公演の中身・裏側がどうなっているかは知らなかったので、両面を理解したいなと思っています。
 

---ちなみに好きな音楽は?

 
植村:加藤ミリヤさんが大好きです!
 
中島:JUDY AND MARYが好きで、中学・高校とバンドを組んでベースをやっていました。

 
続いて、人事スタッフよりソニーミュージックグループにはどのような会社があるのかという全体像および各社の概要を説明。バンドのA&Rや、音楽プロデュース、アニメビジネスなど多岐にわたる事業展開が行われているという説明に、学生たちも興味津津の様子。
 
さらに、アイスブレイクゲームとして、「ヘリウムリング」という、フラフープをチーム全員それぞれの人差し指2本の上側だけで持って床に置くというゲームを実施。意思疎通をうまくとらないと逆にどんどん上にあがって行ってしまうという、文字通り心の壁を”氷解”するゲームだ。
 

ソリューションビジネス(ソニー・ミュージックコミュニケーションズ)

ゲームを行って心も体も温まったところで、続いてのプログラムは「ソリューションビジネス」。株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズの福田正俊氏が登壇し、音楽業界・ゲーム業界などのエンタテインメント業界はもとより、あらゆる企業に「ものづくりのお手伝い」を届けているというソニー・ミュージックコミュニケーションズのビジネスについて説明。
 
ソーシャル時代の新しい企画事例を中心に仕事内容が紹介されたのち、後半は「エンタメのプロとして開発する宴会アプリを考えよう!」と題したグループワークを実施。6人ずつ4チームに分かれて話し合い、限られた時間内にパワーポイントや模造紙なども活用して準備し、それぞれプレゼンテーションを実施した。
 
「楽しいアプリを…」思いついたアイデアを具現化していくのは、簡単なようで案外難しい。「エンタメって、大変なんですよ」と語る福田氏。自身の学生時代を振り返りつつ、社会人の先輩として「学生時代によく遊んでおくこと」「何か発表する時には目線を気にするクセを持つこと」「何をするかより誰とするか。この人と仕事したいと思ってもらえる人になれるよう意識すること」という3点が、どのような業界で働いたとしても大事だとアドバイス。5日間最後まで頑張ってほしい、と学生たちにエールを送った。
 

◆株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ
http://www.smci.jp

創立年:1987年8月
音楽を始めとする各種ソフトビジネスで培ったノウハウとエンタテインメント性溢れる発想から質の高いクライアントサービスを展開しているのがソニー・ミュージックコミュニケーションズ(SMC)です。 中でもCD、ビデオ、ゲーム等のパッケージデザインから宣伝広告制作、ショッププロデュース、更にアーティストグッズ制作に至るまで、幅広い企画・デザイン力が売りとなっています。
当社ではミュージックビジネスの物作りにかかわる録音からプレス・流通まで一元的に対応出来るインフラを整備、日々変化する多様なクライアントニーズを的確につかみとることで付加価値の高いビジネスフィールドを目指しています。
また新規ビジネスの展開にも積極的に取り組んでいます。IT関連では多数のクライアントのWeb制作で着実な成果を収めており、SMCが独自に開発したインターガイドはCDショップの店頭における販促手段として海外からも脚光を浴びています。一方CTP等最新鋭のシステムを駆使したデジタルグラフィックススタジオ(DGS)ではフルデジタルの環境から新しいプリプレスの世界を構築し、高い評価を受けています。
SMCはあらゆるビジネスニーズに応えるために常にチャレンジし続ける会社です。

 

【2日目】 9月3日(火)
 レーベルビジネス/ダンスエンタテインメントビジネス
レーベルビジネス(キューンミュージック)

 
2日目は「ねごとをプロデュース!」と題した本インターンシップの目玉の一つ、レーベルビジネスについての分野と、ダンスエンタテインメントビジネスという一見聞き慣れない分野との2本立て。この日の会場となったのはSME六番町ビルの107レッスンルーム。数々のアイドルグループ達が普段ダンスレッスンに使用しているという広々としたスペースでの実施だ。
 
まずはレーベルビジネス。キューンミュージックのA & R担当、川崎みるく氏と坂本勉氏の2名がマイクをとった。
 
「A & R」という言葉を読者の皆様はご存じだろうか。Artist & Repertoryの略で、たくさんあるレパートリーの中から「この曲なら売れる」をアーティストに付加していく役割だ。川崎氏いわく、A & Rは端的に言えば「レーベルはCDを売るのが仕事で、その中心になるのがA & R。主に『プロダクツを作り出す部分』、『プロダクツを売る部分』に分かれる」とのことで、ねごとのA & R担当スタッフは川崎氏(”作り出す”担当)と坂本氏(”売る”担当)の2名だ。
 
「CDを売る」と一口に言っても、様々な形態がある。そもそも制作の過程で、アーティスト自身が楽曲を自作する場合とそうでない場合とあり、前者は「作ってきた曲に対して構成やアレンジを一緒に考え、練り直していく」のがA & Rスタッフの仕事だ。後者の場合は「このアーティストならこの人」とマッチングを考えて作詞家・作曲家・編曲者に発注するのがA & Rスタッフの仕事となる。(ねごとの場合はもちろん前者に該当する)
 
その一例として、ねごとをデビュー当時から担当する川崎氏は、大変興味深い話をした。ねごとは2008年に結成し同年夏の「閃光ライオット2008」で審査員特別賞を受賞。2010年9月にミニアルバム『Hello! “Z”』でメジャーデビューしたが、実はシングル「カロン」も同時期にレコーディングしていたという。ミニアルバムの選曲にあたって当初、閃光ライオットで披露した「ループ」は既に世に出ているため収録せず、「カロン」を入れる予定だったという。しかし世の中の動きや「ねごとの一番いい所はどこだろう」と熟考し、メンバーと何度も話し合った結果、当時19歳の瑞々しさ、初期衝動を最大限に表現する「ループ」をミニアルバムに収録し、単独でパワーを持つほど完成度の高い「カロン」は後発のシングルにしようと決定したのだという。
 
その後、「たまたま」と川崎氏は謙遜するが、A & Rスタッフの懸命な努力もあり、「カロン」のテレビCMへの起用が決定。全国にその名を轟かすきっかけとなった。「どんな風に仕上げるかを考えて、スタジオや機材、人(エンジニア)を選ぶ。経験がものをいう世界」と川崎氏はその仕事の意義を学生に熱弁した。また坂本氏も、自身の担当分野に絡めてメディアへの露出にまつわる仕組みなどをわかりやすく紹介。「多くの部署と連携し、司令塔となるのがA & R。アーティストが届けたいことをどこに届けても同じように表現できるよう、軸をぶらさないことが大事」と語った。
 
そして後半はグループワーク。なんと前日の朝に完成したばかりというねごとの未発表音源(11月13日リリース「シンクロマニカ」)を発表!「取扱い厳重注意」としながら歌詞のコピーも各自に配布された。居合わせたソニーミュージックスタッフたちもまだ聴いてないという新曲をいち早く聴けるという貴重な体験!ただし、聴いて楽しんで終わり、ではなくその後が重要。学生たちに課せられた課題は「ねごとの自作シングルのA & Rを疑似体験してみよう」というもの。
 
ポイントは「キャッチコピー」「アー写(PRなどに使用するアーティスト写真)」「ミュージックビデオ」「プロモーションプラン」の4点を考えようということで、学生たちは4チームに分かれ、各チームにはノートパソコンが支給。その場で他のアーティストのイメージを検索したり、ねごとのこれまでのアー写、ジャケ写などを観ながら、プランを話し合い、パワーポイントに発表内容をまとめていく。与えられた時間はわずか35分!
 
各チームのメンバーは毎日ランダムに変更されるため、前日とは違う顔ぶれ。しかしさすがはインターンに選ばれた学生。「霧とかモヤとか迷路とか…」「Galileo Galileiにこういう曲があって…」早くも活発に議論する声がどのチームからも聞かれる。そして、役割分担を決めて作業に取り掛かる。
 
最後は各チームが発表!それぞれこの短時間に考えて作ったとは思えないほど秀逸なプレゼンテーションを行い、A & Rのプロ、川崎氏たちも本気の助言。中には「本当に私たちがやろうと思っていたプランに近い内容を発表した班もあった」ということで、学生たちを称賛する場面も。終始、白熱の講義とグループワークが展開された。
 
 

 

◆プレゼンテーターインタビュー
川崎みるく氏


 

---どのチームも本格的な内容でしたね。

 
川崎:みんなすごく理解してくれていて、的外れな回答が全くなかったのが驚きました。ちゃんと今までねごとが出してきたものを理解した上で新しいものはどういう感じかな、と考えてくれていたので、私自身が考えていることに近いものもありましたし、私たちが考えていることが届いているんだなという嬉しさもありました。
 

---各班の発表を見て、どのような印象を持ちましたか?

 
川崎:思った以上に歌詞を掘り下げて考えている学生が多かったですね。普通はサビのキャッチさなどに心が持っていかれがちですが、どの班も「ここはどういうことを言ってるのだろう」とひも解いて考えてくれていたので、それがすごく意外で新鮮でしたね。基本的にはみんなチームごとに書記や進行など分担して出来ていたので、すごく優秀だなと思いました。これは経験だと思いますが…色んな意見が出て時間内にまとまらないという所は、最初のキャッチコピー、何を出したいかという軸を早く決めて、そこに対してはぶれないようにすれば良いと思います。
 

---これから就活を始める学生たちへメッセージをお願いします!

 
川崎:音楽は自分の人生になくてもいいものじゃないですか。でも、人生がちゃんと彩りのあるものになるためのパズルの最後の1ピースだと思っています。世の中を知らない間に豊かにしてくれるものだと思うので、そこに関われることはすごく楽しいし、音だけではなく、私たちの仕事はそれを目に見える形にして、どうやって人に届けるかという所ですが、それを含めてやりがいを感じられる仕事なので、是非皆さんと一緒に仕事がしたいなと思います。

◆株式会社キューンミュージック
http://www.kioon.com

創立年:2001年10月1日 株式会社キューンレコード設立
2012年4月1日 商号変更

事業内容:音楽・映像ソフトの企画・制作/アーティストマネジメント
キューンミュージックは1992年に誕生したソニーミュージック随一の個性派レーベルです。ジャンルに関係なくそれぞれ強烈に独創的なアーティストと、若く柔軟な感性をもったスタッフにより、常に音楽シーンの先を見据えた活動を続けています。
<所属アーティスト>
ART-SCHOOL、agraph、ASIAN KUNG-FU GENERATION、石野卓球、依布サラサ、iLL、奥田民生、ギターウルフ、グループ魂、ゴスペラーズ、シド、砂原良徳、住岡梨奈、チャットモンチー、Chara、TENGUBOY、DJ TASAKA、電気グルーヴ、DOES、TOTALFAT、NICO Touches the Walls、ねごと、HARUKI、PUFFY、ピエール瀧、ピコ、PUSHIM、FLOW、PAGE、Hemenway、HOME MADE 家族、POLYSICS、真心ブラザーズ、メレンゲ、ユニコーン、YO-KING、RHYMESTER、L’Arc~en~Ciel
ダンスエンタテインメントビジネス(エムオン・エンタテインメント)

休憩を挟んで後半は「ダンスエンタテインメントビジネス」をテーマに、エムオン・エンタテインメントの舩橋宗寛氏が登壇した。
 
「ダンスエンタテインメントビジネス」というのはあまり耳慣れないジャンルだが、ソニーミュージックでも元々こうした分野の事業は行っておらず、学生時代にブレイクダンスに打ちこんでいたという舩橋氏が中心メンバーとなり、2013年4月からエムオン・エンタテインメント内に「ダンスエンタテインメントグループ」が発足したという。
 
実はソニーミュージックの採用試験を一度落ち、翌年再挑戦して内定を勝ち取ったという舩橋氏。「自分のやりたいことが社会でどのようにできるかというのは、会社に入ってみないとわからない。説明会を受けて『自分に合う/合わない』なんてわからないし、自分の可能性を狭く決めない方が良い」と、150社以上受けたという自身の就活体験談や、働くことについて持論を語った。
 
「みなさん、世界三大ダンス大国ってどの国かわかりますか?」学生たちに問いかける舩橋氏。まずはダンス分野のエンタテインメントに関する国内外の歴史やダンスマーケットの事情を独自の見解で説明。ちなみに「世界三大ダンス大国」はアメリカ、フランス、日本だそうだが、そんな日本国内におけるストリートダンスマネタイズの事情についても舩橋氏は現状を明かす。
 
舩橋氏によると、日本における、特にストリートダンスでは「お稽古事」が現在主流で、キッズダンサーも多ければ世界一ダンススクールが多い国でもある。そのため、ダンススクールの講師を務めることがビジネスモデルとしては、成立している。またその中では、楽曲やダンサー自らが作ったものではないトラックが使用されるケースが多いため、ダンス文化におけるエンタテインメント性の部分でのクリエイティブな発展、向上のスピードがまだまだ遅いのだという。
 
そこでグループワークでは「ダンスをキーワードにもし自分達が新入社員であれば、どのような提案をするか」がテーマに。ビジネス面での成功とダンス文化の発展との両立について、学生たちから様々なアイデアが出された。「ダンスフェスを開催したらどうか」「ダンスを競技化して…」もちろん現実的にはハードルの高いものもあるが、こうした学生目線での自由闊達な議論とアイデアの発信は、むしろプレゼンテーターである舩橋氏にとっても刺激になっていたようだ。
 

◆株式会社エムオン・エンタテインメント
http://www.m-on.jp
http://www.m-on-books.jp

創立年:1972年2月 株式会社ソニー・マガジンズ設立
1998年3月 株式会社ミュージック・オン・ティーヴィ設立
2012年4月 上記2社が合併し、株式会社エムオン・エンタテインメントに商号変更

「株式会社エムオン・エンタテインメント」は、エンタテインメントと人を繋ぐ、メディア&クリエイティブカンパニーです。
2012年4月1日、株式会社ミュージック・オン・ティーヴィ(存続会社)と株式会社ソニー・マガジンズが合併して誕生しました。
「エムオン・エンタテインメント」の“エム(M)”は、Music、Media、Magazine、Multiなど多様な意味を含有しています。
CS放送上で音楽チャンネル『MUSIC ON! TV(エムオン!)』を展開し、今年2012年にはCS110度上で総務省認可による衛星基幹放送をスタートさせる株式会社ミュージック・オン・ティーヴィと、『WHAT’s IN?』『PATi►PATii』『デジモノステーション』等の雑誌や多様な書籍などを展開する株式会社ソニー・マガジンズが合併することにより、両社が保有する映像制作力、雑誌・書籍編集力、ライブ企画・制作力などのリソースを最大限に活かした事業を展開して参ります。また、音楽を軸にしながらもソニーミュージックグループのアニメ事業、ライブ事業などとの連携を強化することで、メディア形態やコンテンツジャンルを限定しない総合エンタテインメント企業として新たなメディア・コンテンツ事業の展開を進めて参ります。

 

【3日目】 9月4日(水)
 ネット発 クリエイターの誕生~その動向/いしわたり淳治の音楽プロデュース講座

 
インターンは早くも中盤、3日目。参加している24名の学生たちが大変意欲的で、またコミュニケーション能力も高く打ち解けていることは前述の通り。大学の休み時間のような和やかな空気が広がる。
 
さてこの日もプログラムは2つだが、「ネット発 クリエイターの誕生~その動向」と題したソニー・ミュージックダイレクトによるプログラムに続き、メインはプロデューサー、作詞家として活躍するいしわたり淳治(※アーティスト名につき敬称略とさせていただきます)による音楽プロデュース講座だ。全5日間・10プログラムの中では最も時間の長い、180分を使っての濃密な内容となった。
 
「プロデュースとは何か」と「作詞家の仕事について」が二大テーマということで、これは音楽を筆頭にエンタテインメント業界を目指す学生はもちろんのこと、BEEAST読者の10代、20代バンドマンたちにとっても大変興味深いテーマだ。今回、インターン参加者の学生たちには事前に作詞の課題が出されていて、その提出の際いしわたり淳治への質問を書く欄もあり、寄せられた質問に答えつつ、講義が展開された。
 
まずはプロデュースという仕事について。アーティストには「自ら楽曲制作し、演奏・歌唱するタイプ」と「楽曲提供されたものを演奏・歌唱するタイプ」の2通りいるというところから、レコーディングにどのようなスタッフが携わっているかなど、基本的な所をまずサッカーのフォーメーションのようにわかりやすく説明。その上で、「一般的にプロデュースと言うとアーティストがやりたくないことでも無理やりやらせる…というイメージがあるかもしれないですけど、僕はメンバーがやりたいことをかなえられるのがベストだと思う。よく『誰誰プロデュース』という触れ込みがあるが、僕が思う一番いいプロデュースとは完全に消えることだと思う。誰のプロデュースであるかはどうでもよくて、人に単純にいい曲だと思ってもらえることが大事」と自らのポリシーを語った。
 
プロデューサー自身がメンバーの一員になるつもりで、とことん打ち解け、メンバーの音楽的な志向だけでなく人間性を理解する。その一例として、いしわたり淳治は自らがプロデュースを手がけた、デビュー当時のチャットモンチーにまつわるエピソードを紹介した。
 
「かっこいいことをやりたい、男子のバンドマンにもナメられたくない」という意向を持っていたチャットモンチーいしわたり淳治はそんな彼女たちを遊園地に連れて行き、音楽の話を一切せずに、一日を過ごす。「これは楽しくて、これはつまらない」という彼女たちの中での線引きを知ろうとしたためだという。そこから、「キュートを捨てる以外にかっこよさの表現方法はないのか、”キュートで格好いい”は本当に有り得ないことのか」と命題を立て、メンバーと一緒に考えていったのだという。
 
プロデューサーの仕事に関連して、普段バンドを組んで活動しているという学生から「オリジナリティを出す工夫、似ない工夫を教えてほしい」という質問が寄せられた。これに対していしわたり淳治は一方的に持論を話すのではなく、あくまで対話に努め、質問した学生に「普段自分で音楽をやっていて似ちゃうなって思う?」と逆質問。「自分にしか出せない声を出そうとしても○○っぽい曲は○○っぽく歌ってしまうし、そう歌わないとかっこ悪くなる」と、学生も率直な思いを語る。
 
いしわたり淳治は、「似ちゃうというのは、誰かの曲に似ちゃうというパターンと、自分の過去に作った曲に似ちゃうというのの2パターンある」とした上で、前者について、歌舞伎の世界の「若者は型破りになりたがるが、型を知らなければ型なしだ」という言葉を引用しながら、「型を知らずに音楽を語ろうとしても精神論しか出なくなり、それでは成長できない。だから、アマチュアの段階でプロの誰かに似ることは悪いことではなく、むしろ良いことだと思ってほしい」と説明した。
 
また、自分達の過去の曲に似てしまうというケースはむしろプロの方が多いといい、その理由は楽曲制作の過程で、例えばアレンジをしていて「ほら、あの曲みたいな感じだよ」と例えた曲が自分達の過去の曲になってしまうためだという。いしわたり淳治いわく、共通言語が自分達の曲しかなくなることが「似た曲ができてしまう」原因で、その打開のためには自分達のやったことがない曲をコピーすることが肝要だとのこと。確かに、何となく聴いていた曲も自分のパートを実際に演奏したり、音を分解して聴くことで、知識として蓄積されていくというのは頷ける。狭い世界に拘泥しすぎず、視野を広げること。これは、音楽分野に限らずどのようなビジネスシーンにおいても大切な考え方だ。
 
続いて、作詞という仕事について話が展開された。ロックバンド・SUPERCARの一員として活動していた頃から作詞を手がけていたいしわたり淳治Superfly「愛をこめて花束を」を筆頭に、布袋寅泰からSMAPFLiP中孝介少女時代剛力彩芽まで実に様々なミュージシャンの作詞を手がけている。「歌詞は経験を書くことが多いですか?」という学生の質問に、「皆さんは今回作詞(の課題)をしてみて、自然に浮かびましたか?」「普段どういう時に音楽を聴きますか?」といしわたり淳治も問いかける。学生たち一人ひとりと丁寧に対話をしながら、「1つの曲の歌詞は3時間で書く」という自らのスタンスを話した。「曲は長くても5分。その間で言えることはどれくらいか」、すなわち聴いて一発で伝わることを書くことを心がけているという。
 
その他、「メロディと歌詞との関係は…」「どのように印象に残る歌詞を作るか」などなど、音楽に携わる人なら誰もが知りたくなるような興味深い内容が次々と語られるが、中でも興味深いのは「明るさと面白さは違う」という話だ。確かに明朗快活な人ばかりが才能を発揮するわけではないというか、むしろ不器用であったり、ミステリアス、ちょっと変と評される「いびつさ」の中にこそアーティストの才能が隠れているというのはうなずける。そうした「愛されるいびつさ」を発掘し、磨いていくことがプロデューサーの役割、といしわたり淳治は語る。いうなれば、個性を伸ばすのがプロデューサーの仕事、個性的な歌詞を書くのが作詞家の仕事ということだ。
 
休憩を挟んで、さらに作詞論は続く。後半は学生たちが課題として提出した詞について、論評を加えながらポイントを話す。もちろん「作詞家養成講座」というわけでなくこれから音楽などエンタメ業界を目指す彼らにとって必要な視点の体得が目的ではあるのだが、非常に完成度の高い歌詞が登場したことで、自ずといしわたり淳治のアドバイスも本格的になっていく。
 
作詞家にオファーが来る場合、そのほとんどは既に出来上がったメロディに対して「こういうアーティストなのでこういうイメージの曲にしたい」といった発注がされるのだという。「プロの作詞家は書きたいことを書くのではなく、求められていることを書くのが仕事」「メロディがシンプルならワードは複雑に、メロディが複雑ならワードはシンプルにすると映える」といった、いしわたり哲学が次々と飛び出す。
 

◆参加者インタビュー
伊丹綾香さん

 

---伊丹さんの歌詞はいしわたりさんから絶賛されてましたね!元々音楽は好きだったのですか?

 
伊丹:恥ずかしい…(笑)そうですね。小さい頃からピアノやクラリネットなどの管楽器をやっていたので、音楽はずっと好きですね。今はバンドでベースをやっています!
 

---今回の歌詞はどのように作りましたか?

 
伊丹:夜11時から1時くらいにかけて作りました。寝る前に…今まで歌詞を書いたことはなかったので、何から始めていいかわからなくて。
 

---今回のインターンに応募したきっかけを教えてください。

 
伊丹:就職活動をするにあたって業界も何も決めてなかったのですが、今まで生きてきた中で一番時間を費やしたのが音楽だったので、音楽関係に行きたいなと思って、色々探しました。このインターンの募集はTwitterで見つけました。
 

---ここまで3日間のプログラムが終わりましたが、振り返ってどんな印象がありますか?

 
伊丹:色んな刺激がありすぎて!びっくりしてます(笑)一番は、憧れが強くなりました。お仕事をしている方と喋っているとすごく楽しそうで、最初は冗談で和ませてくれますが最後になると皆さん自分のやりたいことがちゃんとあって、「今のままじゃなくて、もっと新しいこと、面白いことがあるんだよ」と教えてくれました。皆さんずっと仕事をしながらワクワクしているんだなぁと思って。私もそういう大人になりたいです。

 
いしわたり淳治の話の中には、私たちが陥りやすい先入観、固定観念を解きほぐすようなヒントもぎっしり詰まっていた。例えば「作詞作曲はアーティストが自分自身でした方が良い」という考え方。90年代に自ら優れた詞、曲を自ら作れるバンドが世に多く出たことで、「人に作ってもらう=自分で作れない」より「自分で作ること」の方が良いことという固定観念ができてしまったという。2000年代に入って誰でも彼でも皆自分で作詞するということにこだわりすぎた結果、クオリティの低下を招いたのだとか。こうした話の一つ一つに対して、学生たちも「目からうろこ」といった表情を浮かべ、聞き入っていた。
 
さらに、こんな話も。お茶のパッケージに書かれていた「豆をまく 父から本気で 逃げる母」という川柳の初句(「豆をまく」の部分)を変えて、「ロックバンドっぽい歌詞に変えよう」「アイドルソングにしよう」という即興題に挑戦。学生たちから「銃を撃つ」「貧血の」「ジャンプした」などなど、ユニークな題が飛び交った。
 
3時間という長丁場のはずのプログラムも、含蓄あるトークに引き込まれ、あっという間に終了の時間。最後にいしわたり淳治は、これから就活戦線に繰り出す学生たちに向けて、大きく背中を押すメッセージを語った。ここに、その一部を転載しておきたい。
 
「人は毎日、自分が記憶している分の10倍行動しているそうで、逆に言うと9割は忘れているのだそうです。実は自分が意識している10%より、90%の無意識の方にこそ自分の個性が色濃く出ているのだと思います。だから、その人が無意識でやっている所の中からいい所を見つけるのがプロデューサーの仕事だと考えています。自分の個性とかやりたいことは何だろうか、と考えるよりも、まずは何でもいいから全力でやることだと思います。私らしくないから、向いてないから、これはやらないとシャットアウトするのは簡単。でもその判断をしているのは自分の中の10%がしていると思った方がいい。他人から見たらあなたに向いていると思うものもあるかもしれません。
 
 どんな小さい仕事でも、一生懸命やっていれば、見ている人は見ています。今の段階でやりたいことがない、自分のやりたいことは何なんだろう?と思うのであれば、とりあえず目の前のことを全力でやることです。これは本当にやりたいことではないからと、適当に仕事をしている人に、人は期待などしません。全力でやってさえいれば、いつかやりたいことが見つかった時に『これがやりたい!』と大声で言えば、必ず周りの人がチャンスをくれると思います。あんなに頑張り屋なら、任せてみよう、と。だから、自分の意識の10%の個性にあまりこだわらず、周りが向いていると思って進めているかもしれない、周りがあなたらしさをプロデュースしてくれているのかもしれない。そういう気持ちを心のどこかに持っていると、違った気持ちで就職活動がやれるのではと思います。」

 

◆プレゼンテーターインタビュー
いしわたり淳治

 

---実際に学生たちと接してみて、どのような印象を持ちましたか?

 
いしわたり:緊張してたな…って思いました(笑)1回休憩を挟んだ時に、友達と談笑しながら「やべぇ、緊張して何の質問も浮かばなかった」と話している学生さんがいて、あ、そんなに緊張しているんだなって思ってからこっちも緊張しました(笑)
 

---拝見していて、学生からの質問ペーパーに一方的に答えるだけでなく、学生にも問いかけをし喋ってもらうことで、かなり活発にコミュニケーションが展開されていたように感じました。

 
いしわたり:なるべく全員1回は当たるようにしました。「対話の数」は意識しましたね。中には作詞に興味はない、ソニーミュージックグループの中でも音楽ではない分野、例えばアニメなどに関心があるという学生もいると思うので、そういう人たちにもなるべく参加している意識を持ってもらうために、質問を採用する形にしました。
 

---プロデューサーとしてミュージシャンに関わる際に、まず雑談から入って関係性を築いていく、というお話には大変共感しました。

 
いしわたり:面白いアイデアのほとんどは無駄話から生まれていると思うんです。だから無駄話が長くできない現場は辛くなりますよね。
 

---学生たちと接していて、ご自身の21~22歳の頃とシンクロする部分はありましたか?

 
いしわたり:僕が若い頃はここまでインターネットが発達していなかったし、もっと言えば、音楽がもっと華やかな時代でしたから、今の子達がバンドをやる動機と僕がやる動機とが一緒かどうか…むしろ全く別物だと思っているので、新人類というか宇宙人というくらいのつもりで捉えています。自分は先輩ということではなく1パートナー、プロデュースする人とされる人との関係、だと普段から思っているんですね。なので今日の子たちも、自分の後輩という意識ではなく、完全に一人の大人、仕事をしようという意志のある若者として接しました。分からないだろうなと思って手を抜いたり優しくしたりはなるべくせずに、対等に接しようと思って臨みました。
 

---それは若いミュージシャンのプロデュースをされる時にも同様に心がけているのですか?

 
いしわたり:雑談のときは若者として接しますが、スタジオに入ったら対等に接します。出来て当然、という気持ちでやります。「まだ若いからこれ叩けないよね、これ弾けないよね」と言ってしまうことが彼らのプラスにはならないと思うので。
 

---歌詞についてもお話を伺えればと思います。講義の中で触れられていた90年代、00年代の作詞事情については大変興味深く思いました。いしわたりさんの視点で2010年代の楽曲制作を取り巻く状況やヒットの傾向など、どのように考えていますか?ここ数年「こういう風になっているなぁ」と感じることなど…

 
いしわたり:どうでしょう…どうでしょうね。総括するほど一つの現象になっていないことがまだ多いでしょうね。みんなが経過観察しているように思います。いずれCDは消えるだろうと思いますが、とは言え定額制が流行っているわけではないですし…。
 

---音楽の作り方は変わってきていますか?

 
いしわたり:現場のスピード感はアップしているように感じます。1曲に使う体力は最小限に、という方向に行っているように思います。
 

---そうすると、これから音楽業界を志望する学生たちが就職活動をしていく上で、「こういうものがあると武器になる」といったものは、何でしょうか?

 
いしわたり:まずは音楽を好きだということですね。音楽を好きということの中には、単純に聴くのが好きという人もいれば歌うのが好きという人もいるだろうし、部屋に流すのが好きという人、あるいは音楽というシーン自体が好きとか…どんな角度でもいいから「その角度から見たら私が一番」みたいな…要するに「ボカロだったら誰にも負けません」「アイドルだったら負けません」という、もっと細分化したプロフェッショナルなスタッフが必要になってくると思います。
 

---重複するかもしれませんが、実際に音楽制作の現場で働いていく上で、どのような能力が求められますか?

 
いしわたり:今は何でしょう…明るさ、でしょうか(笑)音楽の楽しみ方が「イヤホンを耳に入れて一人で楽しむもの」になってきているためか、最近は音楽好きに暗い子が増えてきているように思います。やっぱり人って明るい人に明るい未来を感じますからね。 「あいつについていきたい」「あいつと一緒にやってみたい」っていう一番の要因は、その人の底力というか、明るさですよね。
 

---講義の中では「明るさと面白さは違う」という話もありましたが…

 
いしわたり:スタッフはコミュニケーション力も大事ですからね。たくさんの人を巻き込んで行くという意味でも、基本的には明るい方がいいんじゃないかなと思います。アーティストは暗くても何でも、とにかく面白い人間である方がいいと思いますよ。もちろん、両方兼ね備えていたら一番いいですけどね。

◆いしわたり淳治 公式ブログ
http://kihon.eplus2.jp/

プロフィール:青森県出身
1977年8月21日生まれ
 
1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。アルバム7枚、シングル15枚を発表し、全曲の作詞とギターを担当。
 
2005年のバンド解散後は、作詞家、音楽プロデューサーとして活動するかたわら、雑誌等への執筆もおこなっている。
 
ソニー・ミュージックエンタテインメント CPファクトリー所属。

 
 


 

 
 
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