特集

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TEXT:八神灰児 PHOTO:幡原裕治

A国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。第24回目は、哀旋士のインタビューをお届けしよう。哀旋士は、世界中にアニソン+ヘヴィメタルのベストマッチングを魅せつけたANIMETALの中心人物である、さかもとえいぞう(Vocal)と屍忌蛇(Guitar)の新ユニット。ズバリ、ANIMETALの再来と言っても過言ではない。
 
ANIMETALの創世記を追いかけてきた筆者にとって、今回の哀旋士の立ち上げは待ちに待ったと言うべきものだった。そのニュースを知った時には、熱烈なファンとして興奮を抑えることができなかったのを白状しよう。そして今回、その哀旋士のインタビューを担当できるとことになった本人のTwitterなどでは聞くことのできない境地に踏み込んだ話を聞くことが叶えば最高だ。高ぶる心を抑えつつ、インタビュー当日を迎えた。
 
待ち合わせの場所は渋谷。さかもとえいぞうは約束の時間に現れた。街の雑踏においても、オーラを放つその姿に驚いた。泣く子も黙るANTHEMのボーカリストというだけでも凄いのに、ANIMETALやソロ活動でもその名をロックシーンへ轟かせているのは伊達じゃない。内面からにじみ出るような、何かを成し遂げている人にしか出せない空気が、渋谷の街を染めていった。

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哀旋士 ~アニメタルオリジナルメンバーが再び集結。弱り切った日本に喝をいれてやる!~
 
1996年、アニメソングをメタルアレンジしたバンドが彗星のごとく登場した。その名も「アニメタル」。誰もが想像しなかった驚異の異種配合、アニソンの熱い魂とヘビーメタルの華麗なテクニックの幸福な結婚、狂気を秘めた禍々しいパフォーマンスとストレートな熱唱。それがアニメタルだ。彗星のごとく現れたアニメタルはたちまち巷間を席巻、デビューアルバムはオリコン初登場9位 30万枚を超える大ヒットとなり、年間トータル100万枚を超すセールスを記録した。そのインパクトは数多くのイミテーションバンドを生み、ピンクレディーのMIEも「アニメタルレディー」として参戦、一大ムーブメントを巻き起こした。2006年惜しくもアニメタルは解散したが、その軌跡を追うものは今も絶えず、“アニメタルUSA”なるフォロワーまで誕生している。
アニソンにオリジナルを超える新たな息吹と、氷河期だったヘビーメタルに雪解けをもたらしたアニメタル。時代を超越し死しては甦る、不撓不屈のアニメタル魂。アニメタルとは不滅のアニソンモンスターなのである。
「アニメタルの魂いまだ死なず。」
いま、日本は虫の息だ!にっちもさっちもいかない閉塞感に覆われたこの時代。声なき声が呼ぶ、あの熱狂の日々よ、甦れと。あの灼熱の魂を安寧の暗闇から呼び戻せと。いまこそ熱い叫びの野放図なパワーが、日本の上にのしかかる重い闇の帳を切り裂くために必要だ。
アニメタルの神髄をふたたび鍛錬し、さらに凄みを与えて焼き上げることができるのは、オリジナルメンバーだけだ。さかもとえいぞうと屍忌蛇がついに立ち上がった。“アニメタル”をリスペクトしつつ、「哀愁の旋律を奏でる志士」“哀旋士”として。“アニメタル魂”の復活は、ほかの誰にできようか。
「アニメタルが刀なら、哀旋士は鉈にも斧にもなろう。この漆黒の闇へ必殺の一撃を与えるために。」
アニメソングのメタルアレンジがもはやセンセーショナルではなくなった現在、哀旋士は日本人の心と泣きのメロディに己が原点を見出す。北欧メタル系のサウンドに屍忌蛇のギターがむせび泣き、えいぞうが驚異のシャウトで天を切り裂く。新たな情熱と慟哭のシンフォニー、それが哀旋士だ。

 
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—本日はよろしくお願いします。早速ですが、まずは一番聞いてみたかったことから、うかがいます。アニメタルから派生したANIMETAL USAなどの展開を、そのパイオニアともいうべきえいぞうさんはどのように感じていますか?

 
さかもとえいぞう:前は、なんか自分らこそがANIMETALってバンドだ!我々だけだ!っていうのが強かったけど、ANIMETAL USAが出てからかな?考え方も変わったのは。別に元祖と言うか、そういう感じ方ではなくなったと言うか。アニメソングをメタルでやるっていう「アレンジする」っていうものが“アニメタル”だなって考えになった感じです。例えばANIMETAL KOREAがあるとか、色んな括りがあってもいいような気がするんですよね。
 

—なるほど。変化があったわけですね。

 
さかもとえいぞう:そういうアレンジメントして、自分なりにやるっていうこと自体が“アニメタル”なのかなと。だから逆にその思いは、色んな今似たようなことをやっている人たちの、先頭を走るんだっていうよりも、ひとつのフィールドを作ったっていうような感覚の中。でも、俺らが元祖だぜ!って言う気もあまりないんですよね(笑)
 

—ANIMETALファンの私としては、どこかその元祖の手から離れていくような寂しさみたいなものを感じなくはないのですが。

 
さかもとえいぞう:それはね、まったく僕自身はなくて。何だろう……逆に何かこう嬉しいっていうか、ひとつのジャンルとして作り上げたんだなっていうか。じゃあ今なぜここで、哀旋士?っていうのはANIMETAL JAPANでもあり、元祖って言うかオリジンっていう部分が、やはり求められているのかなと(笑)。ANIMETAL USAが出る時に、僕らの意思表示、我々がANIMETALっていう名前でやってきたから、そこでなにかしらのコメントがないと不自然じゃないですか。じゃあコメントを統一しましょうと、我々の共通の意見を提示しましょうってことになったんです。ANIMETAL USAは我々とは別ものでもあるし、我々は“アニメタル”をやってきたことに誇りを持っているし、こういう形で色々こう発展していくこともすごいことだ!応援していきます!っていうような声明を、一回出したんですよね。そこで、まぁ区切りはできているのかな?って気持ちですね。
 
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—アニメタルの躍進以降、元ネタとも言えるアニメソングについても昨今すごくロック色が強まってきたように思うのですが。

 
さかもとえいぞう:元々そういうところに手を出してもいいジャンルではあったのかと思います。でも、古い仕来りがあったんでしょうね。アニメソングには、アニメソングのそれはやり過ぎだろうってところに飛び込めない何かが。演奏は割と、多少ロックっぽくなってきても、歌が熱ければいいんじゃないかと。逆に演奏が熱くなることによって、子どもたちに拒否反応を示されるっていうのもマイナスになりますし。ただ、僕らがやることによって、メタルというものを初めて聞く人が増えたと思うんです。それでもう免疫ができたんじゃないのかなっていう部分はありますね。日本のアニメソングの独特の素晴らしさ、程良いテイストで両方(アニメファン/メタルファン)満足できるようなものを、一流のその筋のアーティストを使いながら、だけど聞きにくくしない工夫みたいな。そういうブレンドしてバランスを取っているのは、日本ならではのものだと思うんですよね。それは素晴らしいと思いますね。
 

—日本のアニメソング界にも多大な影響と足跡を残したと言っても過言ではないANIMETALという衝撃。その活躍を語る上でなくてはならない恋女房であり、また今回「哀旋士」でも再び共に歩み出すこととなった屍忌蛇さんの、ANIMETAL脱退前後についてお聞かせください。

 
さかもとえいぞう:あの人は天才ですからね。ANIMETAL初期は何だかんだいっても、僕と屍忌蛇の色が出ています。屍忌蛇が抜けてからは、ともかくMASAKISYUもテクニカルな人たちなんですが、屍忌蛇と同じようなことを追求しようとしても、僕らできないし。とはいえ逆に哀愁のあるものをやらなきゃいけないっていう使命がなくなったんで、ANIMETALの後期はどんどん新しいものもそうだし、楽しい、メジャー系のものも入れていこうって流れになりました。基本からはだいぶ外れたかも知れないですけど、こういう風な崩し方もあるよって提示はしてきたと思いますね。
 

—ANIMETALでの活躍を経て、今こうして哀旋士を立ち上げる今、新天地をどこに求めているのでしょうか?

 
さかもとえいぞう:哀旋士に行くまでの流れがやはり多少ありまして。僕は2004年に影山ヒロノブさんたちと一緒に初めてブラジルに行ったんですよね。僕は元々昔から海外がとても好きでした。ANIMETALの後期もジャパニメーションな部分になって、一回フランスにも行ったんですけど、基本的にマネージメントも他のバンドのメンバーも海外にあまり興味がなかったんですよね。
 
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—そうなんですか!意外ですね。

 
さかもとえいぞう:なぜかと言うと、海外って実はそんなに利益が上がらない。当然バンドで行くと、コストもかかるしっていう具合に。僕はっていうと、他のメンバーに比べてキャリアが10年くらい長いんで、ま、変な話、日本でやるより海外でやった方が、とにかく仕切りが悪かろうが何だろうが興奮できるんですよね。僕はそっちの方にANIMETALとも行きたかったんですけど、事務所的にも他のメンバー的にもそんなに関心がないって部分で、それもある意味で解散の原因でもあったりしたんですよね。
 

—なるほど。そのような流れがあったわけですね。

 
さかもとえいぞう:行きたいところがこれだけ違っている中で、「だったらえいぞうさん一人でやればいいじゃん」「一人で行けるわけでしょ」っていう風になりまして。それからの僕は一人で行くようになって、ずっとやっているんですけど。それで、じゃあ(一人でやるのなら)ANIMETALさかもとえいぞうということではなく、EIZO JAPANとしてやって行こうと。EIZO JAPANっていうのは、立ち上げにひとつのポリシーがあったのは、前回のインタビュー(参照:ROCK ATTENTION 20)でもお話しさせて頂きましたけど、僕は本来のアニソンシンガーではないから。カバーをする人であって、アニソンカバーシンガーなわけですよね。
 

—なるほど。

 
さかもとえいぞう:そこで一時期一緒にもやっていて、尊敬している本来のアニソンシンガーである水木一郎さんが1000曲の持ち曲があるということで、じゃあ僕も1000曲カバーしてやろう!って思ったわけです。あの人と同じ数だけのカバーをしていけば、アニソン界においてもひとつの金字塔を打ち立てられるわけですよ。今でも色んな人たちから、オリジナルを持って行って、どっかのタイアップで主題歌とか歌えばいいのにって言われても、何とも思わないんですよ。逆にカバーだからこそ好きなようにリスペクトし、リスペクトがあるからこそできる破壊を楽しめるって部分をメインに、カバーオンリーでやろうってことでEIZO JAPANを打ち立てています。
 
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—確かにオリジナルのアニソン話は、誰もが思うことですね。でもEIZO JAPANはそうではないと。

 
さかもとえいぞう:基本的に僕がカバーアーティストとしてやるって部分で作ったユニットなんでね。ただやりながら悩んだのは方向性の部分で、それこそどっちに向けるかっていう。試行錯誤の中で、最初のアルバム三枚は、割りと自分のバランスで歌ありきのものでカバー曲を選んでいったっていうか。で、四枚目から若い連中にメンバーを変えて、アニメタルと同じようなメドレー形式の31曲にして、じゃあちょっとここからのカバー曲は、90年代以降に絞ろうかなと。ANIMETALはどこか古き良きアニソンをってテーマもあった中で、後半はだいぶ変わってっちゃって、アミューズメント思考になっていきましたけど。
 

—EIZO JAPANの試行錯誤……。

 
さかもとえいぞう:だったらEIZO JAPANは90年代以降に絞るっていう棲み分けを叶えたのが四枚目のアルバムだったんですね。それが見えてからは随分と楽になって、ともかく泣きがどうのこうのとかっていうこだわりは一切なしで。何故かっていったら、屍忌蛇を超えることはできないので。いくらEIZO JAPANIRON-CHINOっていう屍忌蛇の弟子ギタリストを入れたとしても、やっぱり本家は超えられない。だったらIRON-CHINOは、同人系の音楽とかもやっていて、今のオタクの中を突っ走っている人だから、彼に舵を取らせてIRON-CHINOが目立つところで、俺をちょっと遊んでみようって感覚になってやっている感じです。
 

—棲み分けができてきた流れが良くわかります。

 
さかもとえいぞう:だからEIZO JAPANに関しては、こうでなきゃいけないっていうものが全くないんです。逆にメタルがあまり入っていかなかった秋葉原のステージや、オタク寄りの人たちと対決できるわけですよね。それがやっぱりEIZO JAPANの強みなのかなって思います。オタ芸とヘドバンが入り乱れているライブってのは、俺たちにしか成し得ないので、そういうカオスな空間を作るって部分が、EIZO JAPANの目指すところですね。
 
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—EIZO JAPANとしての成功を得る中、話を戻しますが、哀旋士が立つのは何故なのでしょうか?

 
さかもとえいぞう:変な話ですけどANIMETAL USAの登場やら色んな形で周囲も動き出していて、例えばEIZO JAPANにしても、日本のシーンでもっとメジャーなところに行っても良いのかなって思えば、飽きずに年に3、4回ニュースになるようなことはできるんですけど。確かに、そういうところへコマを進めたら面白いかなとも思うけれども、自分が行きたい興奮はそこにはないから。逆にやらなくてよかったし、新人バンドじゃあるまいし奇をてらわずとも注目されている自負もあるしね。ただそんなこんなをじっくり思考錯誤しながら行く中で、僕個人としての興奮を求めるには、海外のライブしかないんで。海外のライブに興奮を求めて、日本でアニソンに携わる部分ではどうしたらいいのかなって思った時に、もう一度原点に戻るべきだろうと。
 

—原点回帰ですね。

 
さかもとえいぞう:その時点で心が屍忌蛇のギターを求め始めていたんですよね。俺が思いっきり歌で泣いて、屍忌蛇が思いっきりギターで泣いて、それだけでいいじゃん!って。哀愁を伝えるもので居ようよ!っていう部分で十分かなぁと。ま、それでEIZO JAPANがなくなるわけでもないし、僕の海外の活動がなくなるわけでもないので。EIZO JAPANではもっともっとカオスを突き詰めていきたいし、海外に関しては単独でやっているんで、世界中行きたいとは思っています。っていう風なところで、色々遠回りには見えるかも知れないですけど、気持ち的には本当に欲しいもの、本当に行きたい場所を見定める良い1年、2年だったようにここ最近のことを思いますよね。
 

—話が少しそれるかもしれませんが、先ほどからお話に出てくる海外での興奮について教えてください。えいぞうさんの言葉で伝えて頂くとするならそれはどういった感覚のものなのでしょうか?

 
さかもとえいぞう:端的に言うと、約束は何もない面白さ。例えばアルゼンチンでコンサートやったとするじゃないですか。当然リハーサルなんてないですよ。当日のリハもサウンドチェックもないので。ともかくEIZOコールの中に飛び込んでいくしかないんですよ。で、飛び込んだは良いけど、モニターからは音も一切聞こえない……オイ!って思うんですけどね。だけど関係ないんですよ、聴こえないなら聴こえるように歌えばいいだろうっていう。ステージでパッと水を飲もうと思ったら水はない!袖にいるヤツに水が飲みてぇーんだよって身振り手振りでジェスチャーしたら、夜飲みにいこうぜ!って言っているのと間違えて、逆に盛り上がっちゃうとか(笑)オイオイ!ってなるんですよ。
 
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—それは、すごいエピソードですね。

 
さかもとえいぞう:そんなんばっかりですよ。でも泣きたいとかじゃなくて、面白いんですよ。特に南米の子たちとやる時は、ともかく僕も南米の人たちと同じように熱くなる方なんで、でも僕以上に熱くなるのは向こうのドラムさんなんですよ。一拍とか完全にとばしますからね、フィルで(笑)。走っているとかじゃないんですよ、4分3になってんじゃん!って。ともかくそんな中でやっていかなきゃいけないから。僕はもう当然、ANTHEMとか一流のバンドでやっていますから、それこそ一糸乱れぬ演奏の中で歌っているわけで、全く真逆のものが聞こえてくるわけですよ。だけどそこでなんとかクリアするのが俺だろっていうのがあって、そこで燃えるんです。
 

—ANTHEMとは本当に対極ですね。

 
さかもとえいぞう:ともかく出ている音で歌うしかない!って現場で、逆にそれが楽しみで、そん時に俺はどうすんのかなって。僕自身も出たトコ勝負みたいなところがあるから。だって英語もスペイン語もポルトガル語もまともに喋れないのに、1時間半近いライブのMCやるんですよ。ブラジルとかで日本語のMCをすることもあるんですけど、「お前たちの国旗を抱きしめて歌うぜ―!」って!客席もオオッー!!ってなるんですけど、それでいいのか!?っていうね(笑)
 

—やはりお客さんの感じも、作り手側だけではなく、かなり違う感じですか?

 
さかもとえいぞう:興奮度も全然違いますね。年々向こうの人たちも、というか日本の人たちでもそうなんですけど、例えば日本も洋楽のアーティストが来て、最初は何でもかんでも盛り上がるけど、だんだんやはり良くないものは良くないって見分けられるようになってくるじゃないですか。僕一回アルゼンチンで「ヘタクソ!」って言われたことがありましてね。その時はGraham Bonnetみたいに、カンペのファイルを足元に置いていたんですよ。で、福山芳樹の「突撃ラヴ・ハート」を歌っている時に、足でページをめくろうと思ったらスルスル~って飛んでっちゃったんですよ、カンペが。
 
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—それは修羅場ですね。

 
さかもとえいぞう:結局あたふたバタバタして歌っていて、せっかくみんなが楽しみに歌っていたところに、メインが満足に歌えなくて、会場のみんながオオッー!って言う中で、ヘタクソ!って怒られました。最前の何人かに。そのくらい、向こうのレベルが上がっているわけですよね、やっぱりちゃんとやらなきゃなぁとは思うんですけど、僕自身もね…スイッチが入っちゃうんですよ(笑)。ま、気持ち的には反省しています。話が脱線しましたけど、そういう暗闇の中にいきなり放り込まれるようなスリルはありますよ。それも興奮に直結しているっていうね。
 

—今回お話を聞かせて頂いていて、どこを切り取っても興奮ってキーワードが、さかもとえいぞうを突き動かしている根幹のように感じます。例えばそれは過去に遡った時の感覚でも同じですか?

 
さかもとえいぞう:EIZO JAPAN時代は、僕リハーサルへ行かないんですよ。だいたい本番前に顔を出すか、又はぶっつけ本番。ほとんどぶっつけ本番が多いですね。メンバーともとても新鮮でいられますし、一緒にステージやって、向こうからみると「こう来るだろうな」っていうのが一切わからないわけですよ、この俺がステージに飛び込むと。それが逆に燃えるんでしょうね、その中でひとつの熱狂の時間が作れるわけです。きっちり作って、「俺たち一生懸命練習したし、ドンってやろうぜ!」っていう部分だったら、確かにそれは97点のライブができるかもしれないけど、予測不可能なところで93点を出すライブってところの方が、僕は興奮するんでしょうね。
 

—興奮を生み出し続け、興奮を追い続けるという、まさにそんなお話ですね。

 
さかもとえいぞう:それしかないんですよ。僕が最初にバンドやろうと思った理由は、とにかく異次元に行きたかっただけですからね。Ian Gillanのシャウトを聴いて、家でウワッーと自分でもできるかなってやってみて、できた時の興奮を自分だけじゃなくて、みんなにも聴いてもらいたいって思って…。ともかく普段の高校生の”坂本英三“じゃない、違う世界に行きたい。だから僕は高校時代にクラスメイトとバンドをやったことは一切ないんですよ。一緒に授業を受けている人たちとやったって面白くないでしょ?違う自分になれるんだったら違う学校の連中とやるっていう。僕今、よく高校の同級生なんかと飲んだりするんですけど、僕がバンドやっていたこと、あまり知らないんですよ。基本的に帰宅部だったんで、寝ているか家に帰って練習しているだけだったから。デビューしたことも結構みんな知らないんです。そのくらい学校では学校の顔と言うか、当たり障りのない自分っていうか、授業中に妄想しているんですよ。「俺ってなんて素敵なんだろうな」とかって。ある意味イタイ子だったんでしょうけど。筋金入りですよ!ぶれないんですよこの人(自分)!メンタルが相当強かったんだろうと思いますけどね。
 
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—その強さは御自身のキャリアにも存分に反映されている気がしますね。

 
さかもとえいぞう:ANTHEMを以前に辞めた時も、次は何やろうかなって考える時にはまっさらなんです。自分はこうでなきゃいけないっていうのが全くないのです。若いうちに一回なにか成し遂げたっていう余裕なのかもしれないんですけど。心から出てくるものに従ってどんどん楽しいことをやっていこうっていうね。だから練馬マッチョマンを始めた時もすごく興奮していましたよ。自分の中でやっぱり興奮がテーマなんでしょうね。逆にそこに取りつかれちゃっているんでしょうね、昔っから。音楽やりたいって妄想を始めた15歳の時から35年間何ひとつ変わってないんです。それってある意味すごい幸せなんだなって感じがしています。逆に言えば大成功してない理由なんですよ。
 

—そうなんですか?

 
さかもとえいぞう:例えば何かを成し遂げて、武道館に絶対に行くんだって言って進む人に比べて特に僕にはそういうの全然ないんですよ。むしろそれより興奮したいし面白いし、自分というものを使って、自分がいいなって思うものを表現し続けてればいいやっていうね。長く現役でやることが僕の中の夢なんで、80歳くらいになってもやっていきたいなって思いますね。
 

—いつかのライブでのMCで、あまりアニメやアニソンには詳しくなく、お兄さんの影響で造詣を深めていったと言うような話を耳にした記憶があるのですが、ANIMETAL以降の関わりでアニソンに対して感じるところ変わられましたか?

 
さかもとえいぞう:やっぱり古いのがいいね(笑)。哀旋士の選曲でも今回、結局よく見たら平尾昌晃さんだったり、筒美京平さんだったりとか、宮川泰さんだったりとか、昭和の歌手の大御所の作曲家なんですよね。ただのアニメソングということではなく、ひとつ昭和の素晴らしい歌だったんだなと思って。僕はやっぱそこが好きで、昭和歌謡が好きなようにアニメソングも良いものはやはり素晴らしいと。全てのアニメに思い入れがあるわけではないから、アニメに思い入れがあるっていったら「明日のジョー」と、「るろうに剣心」と、「巨人の星」しか知らないし。実際アニソンのカバーをやってみて、僕は昔の歌が好きだなと思いました。新しい歌にも楽しい歌はありますが、それは楽しむためのアイテムであって、自分がグッとくるのは昔の歌なんだなって改めて知りましたね。
 

—哀旋士での選曲という話が出ましたが、今回の1stアルバムの選曲はどういった経緯で選出し決定されたものなんでしょうか?

 
さかもとえいぞう:哀旋士の選曲に関しては、屍忌蛇と話した時に、屍忌蛇はともかく「空手バカ一代」をやりたいと。軍歌のノリでいきたい、軍歌のメロディーで泣かしたいんだ!っていうね。僕としては「なるほどね!いいんじゃない」って感じで。で、僕が出したのは子門真人さんの「UFO戦士ダイアポロン」が大好きで、あとは「重戦機エルガイム」。やっぱカッコいいからね、パンチが効いてるし。僕がリクエストしたのはその2曲。あとは屍忌蛇が全部決めて。次のアルバムに関しても、たぶん僕が2曲くらいコレやんない?ってリクエストして、あと屍忌蛇に全部任すかな。
 
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—リクエストは2曲程度なんですね。

 
さかもとえいぞう:というのも今回、自分でも聞いてすごく良いなって思うのは、いわゆるイントロとかエンディングであまりシャウトとか入れてないでしょ?あれはね、イントロなどは屍忌蛇の世界なんだよね。歌になったら俺にバトンを渡してくれて、俺がもう哀愁たっぷりに歌って、ハイ!屍忌蛇ってバトンを渡す。このやり取りのバランスがすごくいい。
 

—なるほど。息の合った部分ですね。

 

さかもとえいぞう:だって僕と屍忌蛇MASAKIなんて、あの時ほとんど面識なかったし、それが集まって作り上げたもの。それを本当にいいなって自分らで思っていたんです。ようやくその頃に戻れたかな?っていう感じ。本当の意味でスタートラインに立っているような気がして、とても新鮮なんです。
 

—それでは最後に、読者やファンの方に向けて、一言メッセージをお願いいたします。

 
さかもとえいぞう:哀旋士は今回アルバムを出して、ツアーも夏まで入っております。お忙しいと思いますが是非とも観に来てほしいです。どうしても来られない人は、またすごいライブやりますから、その次に必ず来てください。ともかく俺たちは最高のアルバムを作って、最高のライブをやるだけです。初めて俺たちの名前を見たり、この記事を読んだりしてアンテナにちょっとでも引っかかった人たちがいたら、多分それはもう俺たちとの運命なんで、いつでもいいから是非俺たちに触れてみてください。そうして集まってくれたことに俺たちは倍返しで幸せにしてあげたいと思います。よろしく!
 
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010インタビューを終え、さかもとえいぞうを見送る。強いオーラを発しながら、渋谷の人ごみへと吸い込まれていく。多彩といえば簡単だが、さかもとえいぞうのマルチな表現者ぶりには本当に舌を巻く。
 
ANTHEMでデビューしてから、絶対的な歌唱力とセンスで、さかもとえいぞうというブランドを築き上げた。今はもう彼が歌うということだけで、どんな作品もクオリティが保証されているに等しい。
 
今回聞くことができた話は、ANIMETALに思い入れのある筆者にとって、うなずくことしかできない内容だった。「アニメタル」という文化を生み出したANIMETALから、さかもとえいぞう自身が、一歩前進する瞬間に立ち会えた幸せとでも表現しようか。
 
そして、哀旋士のアルバム『HEARTSTRINGS』はメドレー方式ではなく、1曲1曲が単独で存在している。アニソンという素材を、泣きのヘヴィメタルへと変化させることにおいて、やはりさかもとえいぞう屍忌蛇がパイオニアであることは間違いない。
 
「アニメタル」という文化は、またパイオニアによって、新しい扉が開かれることだろう。ぜひ一聴して、その素晴らしさを味わってほしい。8月には5箇所を回るツアーもあるので、会場に足を運んで、生の哀旋士を心に刻もう!

哀旋士『HEARTSTRINGS』
発売日:2013年6月5日 2,835円(税込)
 
M01. Nadia
M02. ゲッターロボ號
M03. グランプリの鷹
M04. UFO戦士ダイアポロン
M05. いにしえ
M06. 空手バカ一代
M07. アイアンリーガー~限りなき使命
M08. エルガイム-Time for L-GAIM-
M09. 誰がために
M10. Zのテーマ

 

哀旋士オフィシャルサイト
http://www.aisenshi.jp/
 
哀旋士 ”Heartstrings Tour 2013”~哀旋士西へ
 
2013年08月03日(土)【岡 山】倉敷REDBOX『志士達の魂の饗宴!灼熱の夜』
2013年08月04日(日)【高 知】高知CARAVAN SARY『屍忌蛇凱旋帰国、革命の夜』
2013年08月18日(日)【東 京】表参道GROUND
2013年08月24日(土)【愛 知】名古屋Heart Land STUDIO
2013年08月25日(日)【大 阪】心斎橋 CLUB ALIVE!

 

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Kelly SIMONZバンド/さかもとえいぞう メタルハンサムマン
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さかもとえいぞう「赤坂見附独演交流会 第36弾」
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さかもとえいぞう『アコギハンサムマン1』
http://www.beeast69.com/news/rockinfo/53047
X.Y.Z→A/さかもとえいぞう with 少年ハンサム隊
http://www.beeast69.com/report/13973