新たな時代の風雲児となるべく奮闘を続けているロック男子たち。その姿を追う新しい特集「ROCK SAMURAI STORY」。記念すべき第1弾は、「江戸前四重奏」というキャッチフレーズからも本特集にふさわしいサムライ4人組快進のICHIGEKIを、4回のシリーズでお送りする。第三回となる今回は、前回までの2回の特集から視点を変え、快進のICHIGEKIがライブパフォーマンスを行うに当たり、どのような機材や楽器を使用してライブを行っているのか、またどのような策略でライブを行っているのかを探ってみた。
強力なライブパフォーマンスに目を奪われがちな快進のICHIGEKIのステージだが、彼らは同時に、ライブステージでも高いクオリティでサウンドを実現していることも見逃せない。そのサウンドの源として久雄、潤、佑一の3人はどのような楽器機材を使用しているのか?またその楽器、機材の選択や構成にはどのような指向があるのか?今回は5月31日に行われた東京Star Loungeでのライブにおいてセッティングされたメンバーそれぞれの機器構成を探り、その秘密に迫る。またミニコラムとして、彼らのライブパフォーマンスが毎回、異常なまでに盛り上がる秘密を、彼らの定番的なパフォーマンスパターンから探る。
また、合わせて今回は5月に行われた東名阪ワンマンツアーの中で、大阪、名古屋でのワンマンライブの模様をレポートする。東京公演に勝るとも劣らない緊迫した雰囲気と、あくまで攻めの姿勢を崩さない彼らの姿勢が満ちた今回の東名阪ワンマンツアーの雰囲気を、前回の密着取材と合わせてたっぷりと感じてもらいたい。
1.1 久雄(Guitar)
久雄がもともと使用していたギターはCrews Maniac Soundのレスポールモデル。現在ステージで使用しているのは、KTRのBeastだが、先日のワンマン公演ではメンテナンス中だったため、以前から愛用していたモデルを使用。ハードロック/ヘヴィメタル界では、取り回しのよさやルックスのインパクトを重視する傾向があり、Crews Maniac Soundのような音重視でビンテージ的ルックスのギターユーザーはどちらかというと少ない方であり、このレスポールモデルを選んでいるところには、彼のギター自体の鳴りと出来に対する相当のこだわりを感じさせる。
その意味で、もともと「ハイコストパフォーマンスかつビンテージギター級の品質」をコンセプトとしているKTRのギターは、彼の趣向にピッタリとマッチしているようにも見える。BeastはピックアップメーカーK&Tのカスタムピックアップを使用。どちらかというとローゲインで、ビンテージモデルの音を目指したマイルドな趣向だ。
音自体は非常にナチュラルな耳当たりのよいディストーション(歪み)サウンドを指向としているため、基本となる音はアンプによって作り込んでいる。実際にステージや音源から聴かれるギターサウンドはかなり高い度合いで歪んでいると感じられるが、ディストーションの度合いのコントロールをギターのボリュームノブで行えるくらいのナチュラルな温かみのあるサウンドを基本としている。(近年のへヴィメタルのギターは、エフェクターによりかなり高い度合いのディストーションを掛ける傾向が強く、ボリュームノブだけでは歪みはほとんど抑えられない場合が多い。)
かつて流行となった改造マーシャルをモチーフとしたSplawn製のSplawn QuickRodを使用している。モダンハイゲインアンプに引けを取らないパワーを持ちつつ、温かみのあるサウンドが、彼の指向にピッタリとハマったようだ。このアンプはVolumeなどのコントロールの他にゲインモード(歪みの度合い)を3段階に設定出来るコントロールが付いており、彼は中間モードを使用している。
また、部分的に使用するコーラス、ディレイ系やワウ、フェイザーのエフェクトはBOSS製のマルチエフェクターGT-100でまとめて行っている。先日のワンマン東京公演では、これにプラスして同じくBOSS製のTE-2が接続されていたが、使用に際してはまだ試行錯誤を行っている模様。全般的にはエフェクター自体の数は少なく、ライブ活動が活発な彼らだけにセッティングに時間を掛けないことを心がけているようだ。
ギターからエフェクトへの接続は完全にワイヤード(シールドケーブルによる有線接続)。アクティブなステージングが特徴の快進のICHIGEKIにおいては意外に見えるかもしれないが、あくまで音へのこだわりを優先した結果とも見える。ギターからアンプへの接続は基本的に直列でギター~ブースター(xotic製)~エフェクター~アンプとつなぎ、シンプルな構成をとっている。ちなみにアンプからPAへの送りも、キャビネット(スピーカー)の前にマイクを置き、そこから音を送る形式。
MUSICLAND KEY KTR(Key to the Rock):
http://www.musicland.co.jp/content/ktr/
Crews Maniac Sound:
http://www.crewsguitars.co.jp/
Splawn Guitars:
http://www.splawnguitars.com/
XOTiC:
http://xotic.us/
BOSS(Roland):
http://www.roland.co.jp/BOSS/
1.2 潤(Bass)
潤は、以前はMOON製のアクティブサーキット内蔵のJazz Bassなどを使用していたが、現在はKTR製のJB-60’sをメインとして使用している。『ROCK SAMURAI STORY 快進のICHIGEKI(Part1)Side A』でも述べられているように、MOONのJazz Bassはアクティブサーキットによる硬質なサウンドが基本だったが、現在はパッシブサーキットによる中低域重視の音に指向を変えている。
彼曰く「ドンシャリから、ドライブを掛けて歪んだ音、ゴリゴリの音になった」というこのベース。ピックアップはK&T製のカスタムピックアップを採用、ビンテージ指向のサウンドがベースのパッシブサーキットによるベースだが、アクティブサーキット並みの高出力が得られる、パワフルなサウンドが持ち味のピックアップだ。ボディ自体の鳴りにも満足感を得ている一方で、今後さらに弾き込んで「ライブで一番いいところ(かつタフなところ)でも、しっかりと鳴るようにしたい」と彼は語っていた。
右上の画像で、右側は5月末に行われたワンマンライブの際の画像だが、その後ピックガードにバンドのイメージを取り入れた「快進のICHIGEKI」カスタム仕様(画像左側)としている。
快進のICHIGEKIのフロント陣の中でも猛烈なヘッドバンギングなど激しいパフォーマンスを信条とする彼だけに、ベースからエフェクターへの接続もワイアレスシステム(無線接続)を使用している。ワイアレス機材はLine 6製のものを使用。エフェクターはDPA-2B(Crews Maniac Sound製プリアンプ兼ラインセレクター)を使用している。このエフェクターは入力が2系統あり、メインの接続以外に予備のベースも使用できるようレベルのセッティングも調整が可能、何らかライブのトラブルなどでベースを使い分けるときにはすぐ予備のベースが使用できるようになっている。
潤の機材構成も非常にシンプルで、エフェクトはボード上にあるBUF-211(Crews Maniac Sound製バッファーアンプ)とDPA-2Bのみで、楽器の鳴りを重視していることと同時に、ライブでの状況やトラブルにすぐ対処できるよう配慮がなされていることがよく分かる。ボード上にはEBSのMulticompも設置されていたが、現在は使用していないとのこと。ちなみに彼はチューナー(KORG製)をボード上とアンプ側と2箇所に設置し、状況によって使い分けられるようにしている。
アンプはGALLIEN CRUGER 700RBIIを使用。以前メインで使用していたMOONのベースとサウンドとの相性を考慮し選択したということだが、同様に様々な種類のキャビネット(スピーカーユニット)と相性がよいのも、これを選択した理由の一つだという。
ライブツアーでは自前のキャビネットが使用できず、ライブハウス常設のキャビネットを使用するケースが多いため、この配慮は重要なポイントだ。全般的にシンプルな構成ながら、ステージ上での様々な局面、セッティングに対する配慮など、彼のプロフェッショナルな指向がうかがえる。なお、PAへのSENDは、ラインを分岐し、一方はアンプ、もう一方はDI(ダイレクトボックス)を通してライン出力を行うという基本的なスタイル。
MUSICLAND KEY KTR(Key to the Rock):
http://www.musicland.co.jp/content/ktr/
Crews Maniac Sound:
http://www.crewsguitars.co.jp/
Line 6:
http://jp.line6.com/
EBS(モリダイラ楽器):
http://www.moridaira.jp/archives/4760
KORG INC.:
http://www.korg.co.jp/
GALLIEN CRUGER(神田商会):
http://www.kandashokai.co.jp/flos/gallien_krueger/
1.3 佑一(Drums)
佑一のドラムセットはYAMAHAのカスタムということだが、本人曰く「譲り受けた」ものだという。ハードウェアはTAMA製、シンバルはエンドースを結んでいるZildjan製。シンバルに関しては「目立てれば」ということと同時に、左手側でもシンバルが叩けることを考え、左右対称となるような配置を構成している。これは彼のリスペクトする元DREAM THEATERのドラマーであるMike Portnoyを意識しているという。
スティックはスイスのメーカーであるWincent製の5a、最もベーシックなモデルを使用している。全般的にはシンプルでベーシックなセッティングであるが、本人曰く「できるのであれば数も増やしたいが、今はツアーでの利便性も考えて現在の構成に落ち着いている」とのこと。最もセッティングに手間の掛かるドラムだけに、このあたりは非常にシビアに考えているようだ。
ドラムの音の中でも、最も個性が強く出るスネアには強いこだわりを持っており、DW製のブラス製のものを使用している。(スネアだけで8kgというかなり重いもの)また、ツインペダルはTAMA製のものを使用しているが、ビーター(バスドラを直接叩く部分)は、北野製作所製のチタン製ビーターを使用しており、かなりパワーやアタック感を重視していることが分かる。
チタン製品は通常の鋳鉄製品に比べると振動の伝導率がよく、アコースティック楽器とは相性がいい。同社の製品ではドラム製品だけでなく、チェロやコントラバスのエンドピン(楽器と床面の間にある棒状のパーツ)なども用意され、ハイスペックを求めるプロユーザーからも多く支持を得ている。よりパワフルなサウンドを、と考えている人は、是非一度チェックしてみてほしい。
YAMAHA:
http://jp.yamaha.com/products/musical-instruments/drums/
Zildjan:
http://zildjian.com/
TAMA Drums:
http://www.tamadrum.co.jp/
北野製作所:
http://homepage3.nifty.com/kitanodrums/
DW(Drum Workshop Inc.):
http://www.dwdrums.com/
Wincent Japan:
http://www.applecorejapan.com/wincent/
久雄、潤、佑一の機材取材にて感じられたことは、使う機材や構成に違いはあれど、各自のシステムに対してあくまでシンプルさを追求している部分に、共通するものがあることだった。そこには自分の中にある明確な音のイメージを具現化しようとするために、一つ一つの機材が持つ特性、音を最大限に活用しようという妥協のない向上心がうかがえる。
彼らはあくまで自分が欲しい音を最優先と考え、そこに向けての音作りを行う。逆にいえば彼らにはライブステージの環境状況を含めた音のゆるぎないイメージが、常に頭の中にしっかりと構築されている。逆にイメージどおりの音が作れるのであれば、準備する環境をシンプルにできるに越したことはない。いたずらに複雑な構成を行ってしまえば、余計なノイズやトラブルの原因をシステムに組み込んでしまう恐れがあるからだ。
また、彼らの活動の主がライブであり、セッティングなどにストレスを掛けないよう配慮するというプロフェッショナルな意向も合わせて強く感じられる。
ライブパフォーマンスでは常に観衆を引き込み、ステージを興奮の渦に巻き込む快進のICHIGEKI。ステージを自ら「戦いの場」「討ち入り」と称するステージの中では、戦いに望むために観衆の想定以上にクレバーな必殺技をいくつも持っている。その最たる彼らの「常套手段」を、今回はいくつかピックアップし紹介しよう。初めて快進のICHIGEKIのステージを見る人は、これを知っておけばより彼らのライブステージを楽しむことができるだろう。
(※動画は、6月20に渋谷Star Loungeにて行われたステージより。)
1)登場~第一声
登場のSEが不意に途切れ、合成されたヴォイスがステージの始まりを告げる。「快進のICHIGEKI!!」この叫びからステージはスタート、異様なまでの緊張感を会場に充満させる。しかし正式な第一声はスタートから数曲を終えたあとの、コータによる「Thank you!俺らが快進のICHIGEKIじゃあ!」ここまでの周到さから、ステージのスタートに対して誰もが「いよいよ来た!」と身構えざるを得なくなる。
2)「三歩前へ」
ステージ中盤から後半にかけて、クライマックスへのラストスパートを行うに当たり必ず行われる予備動作が、この「三歩前へ」というパターン。ステージ前面の人口密度を上げ、ステージのさらなる盛り上がりを狙うためのものだが、ここにも彼らならではの配慮が強く感じられる。通常ロックのライブでは「もっと前に来ようよ!」とストレートにフロアをあおるケースが多いが、アーティスト側と面識がほとんどない観衆は、ライブで積極的にこういう行動を起こすことに気おくれしてしまうケースは多いのではないではないだろうか。
しかしそこでコータは「三歩でいいから」と言う。こう即すことで「実はそんな難しいことじゃない」「気兼ねするものではない」ということを暗に示している。さらに彼は、局所的に来てほしい人を指定し行動を即し、その反応まで見て「よくやった!」とばかりに会場全体の観衆に拍手を求める。その対話する様は、バンドと観衆、そしてフロアの観衆同士の距離をグッと近づけてくれる。
3)「音座芸夢」
「音座芸夢」は快進のICHIGEKIの代表曲、ライブのクライマックスでは必ずプレイされている曲だ。ここはまさしく死力を尽くす「最後の戦い」の場。そのため生半可な気迫ではコータは良しとしない。彼の痛烈な「Are you ready!?」という痛烈な叫びを、観衆が十分に反応するまで続ける。そしてバンドの猛烈なあおりから久雄のギターが曲のイントロが奏でられ始める。まさに戦いのトドメを刺す瞬間を迎える緊張感がそこには充満。そしてリズムがブレイクした瞬間に、会場全体でこの叫びを入れる「音座芸夢、スタート!」そのコールで会場はまさしく一つになる。
この盛大なパターンで、観衆は真の意味でライブに没頭し、曲を味わうことができる。それは曲名のコールのタイミングによりバンドや他の快進ソルジャーと一つになることで、気おくれするような感情を改めて一気に払拭し、クライマックスに向けての覚悟を決めることができるからだ。
4)ラストコール
ラストナンバーのエンディングでコータは必ずこれをフロアの観衆とともにコール&レスポンスする。「We are 『快進の』!?」「ICHIGEKI!」「We are fuckin’『快進の』!?」「ICHIGEKI!」この「We are」という言葉には、ステージのメンバーたちだけが「快進のICHIGEKI」ではないことを示しているようにも見える。これを叫び、ステージが締めくくられることで改めて自分たちが「快進のICHIGEKI」の一人となったことを改めて認識し、観衆はバンドから新たなエネルギーをもらい受けることになる。
快進のICHIGEKIのステージングパターンには、非常に興味深い点が感じられる。これらのパターンはすでに彼らのステージの中で何度も行われているものであるが、観衆はそれのパターンが登場すると分かっていても、そのパターンに引き込まれ、彼らのステージに狂喜乱舞させられてしまう。その最大の秘密は、やはり彼らと観衆の対話にあるだろう。フロントマンであるコータは、ある種の動作を行ったあとに常に確認と反応の動作を行う。
「三歩前へ」と観衆をあおれば、観衆が三歩前に詰め寄ったことを確認する。そこには彼らが本当に伝えたい思い、そしてライブで観衆と一体になることを願う強い思いが感じられる。厳しい世の現実を受け入れながら、敢えてそこに立ち向かう強い姿勢を見せる彼ら。このライブステージを見れば、観衆は彼らの思いを受け入れ、強い意志を持つことができる。だまされたと思って一度是非ステージを見に行ってほしい。きっとそこには、彼らのあおりに反応して拳を上げてしまう自分自身が存在するはずだ。
なお、あくまでパターンと称したこれらの動作は、あくまで今までのステージで行われたものであり、「討ち入り」と呼ばれる彼らのステージの中では、どんな「不意打ち」が突然、観衆に降りかかってくるかは分からない。『ROCK SAMURAI STORY 快進のICHIGEKI(Part1)Side B』のインタビューでコータが最後に語ったように、「一人でも多くの人の胸を熱くする方法は、どんな手を使ってでも掴(つか)んでいきたいと思っている」彼らだけに、常に要注意とすべきといえよう。
先日の「ROCK SAMURAI STORY 快進のICHIGEKI(Part2)Side A」では東名阪ツアーの東京公演の模様を密着レポートしたが、今回はそのステージに先だって行われた大阪、名古屋公演の模様をレポートしよう。東京公演同様に、強烈な盛り上がりを見せた各会場のステージ。総じてさらなる快進のICHIGEKIのステップアップが垣間見られた。
3.1 大阪(大阪単独公演 ~再現!浪速の乱!~ :2013/05/17)
大阪公演のサブタイトルは、「~再現!浪速の乱!~」。この日は、彼らのニューアルバム『其の四』をそのまま再現しようという趣向がステージで見せられた。「絶体絶命の愛の結晶」「的なBaby」「大人子守唄」から勢いよくジャブを繰り出した後は、コータの第一声からニューアルバムのオープニングナンバー「暴奏セッション」による「再現」のスタートが切られた。