特集

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:吾妻仁果

国内のロックシーンの最先端を駆け抜け、輝き続けるフロンティアたちの横顔に迫るインタビュー特集「ROCK ATTENTION」。これまで40組のロックバンド/ロックミュージシャンを取り上げてきたが、第41回は今年・2015年に創立30周年を迎えたロックな劇団、演劇集団キャラメルボックスをピックアップする。
 
キャラメルボックスは1985年に早稲田大学の学生演劇サークル「てあとろ50’」出身の成井豊加藤昌史真柴あずきらを中心に結成。同じ1985年に結成したロックバンドを並べると、Guns N’ RosesDream Theater、国内ではTHE BLUE HEARTS、そして1985年にメジャーデビューを果たしたバンドでは米米CLUBSHOW-YA聖飢魔IIといった名前が挙がる。今夏の30周年記念公演第3弾は、筒井康隆が半世紀前に書いた『時をかける少女』を世界初舞台化。入団3年目で21歳の女優・木村玲衣が劇団史上最年少で主演に抜擢され、話題を集めた。
(レポート記事はこちら:「キャラメルボックス30周年記念公演『時をかける少女』」)
 

◆キャラメルボックス30th vol.3 『時をかける少女』
8/9(日)まで東京で & 8/20(木)~24(月)まで大阪で上演中!
詳細は記事末尾へ

 
今回の特集記事では「芝居における音楽との関わり方、こだわり」といった、ロックマガジンBEEASTならではの観点から、人気劇団・キャラメルボックスの魅力を紐解いてみたい。旗揚げメンバーである、製作総指揮・音楽監督の加藤昌史と、結成2年目の1986年に入団し、『銀河旋律』、『ブリザード・ミュージック』、『レインディア・エクスプレス』など数多くの作品で主演を務めてきた看板俳優・西川浩幸の2人へのインタビューを行った。
 

◆演劇集団キャラメルボックス
“人が人を想う気持ち”をテーマに、“誰が観ても分かる”“誰が観ても楽しめる”エンターテインメント作品を創り続けている劇団――
 
旗揚げは1985年。早稲田大学内の演劇サークル「てあとろ50’」出身者を中心に社会人劇団としてスタート。以後、順調に動員数を伸ばし、1990年クリスマスツアーで中劇場のシアターアプルと関西に進出。現在は、年間5~6作品を1公演1~2ヶ月のペースで上演し、15万人を動員する。
成井豊作品の上演を基本としつつ、1993年からは創立メンバーである真柴あずきも執筆を始め、現在では成井の単独執筆作品、成井真柴の共同執筆作品というスタイルが主となっている。
作風は、エンターテインメント・ファンタジーを基調とし、「ハーフタイムシアター」「アコースティックシアター」「幕末時代劇」「ファンタジックシアター」「タイムトラベルシアター」「音楽劇」など、ジャンルという「枠」ではくくり切れない、多彩なレパートリーを持つ。近年では、北村薫氏や梶尾真治氏の小説を成井が脚色、演出するなど、小説の舞台化も行っている。

 

 

演技がリアルであればあるほどファンタジーは生きる
「あったらいいな、あるかもしれない」をやるのがキャラメルボックス
—30周年記念公演に『時をかける少女』を上演するというのはいつ頃に決まったのでしょうか。

 
加藤:忘れもしない去年の7月ですね。ここ10年くらい、前の年の春頃に年間予定を決めて発表していましたが、2015年は30周年ということで春夏冬1本ずつ発表しようということになり、話し合いの期間が増えたんです。それで、原点に返るとしたらなんだ、と話し合いをして…(演出の成井豊と)どっちが先に言い出したか、多分僕だと思うんですよ。「『時をかける少女』、どうですか?」って。
 

—なるほど。加藤さんの発案だったのですね。

 
加藤:これまで何度も言ってきてるんですよ。でも「無理無理」、「いまさら」ってそのたびに却下されて。でも30周年だったら、と。僕も成井も昭和36年生まれなんですが、小学校のときに見たNHK少年ドラマシリーズの『タイムトラベラー』というドラマがSFに目覚めた最大のきっかけだったんですよ。これ(写真参照)がその後に買って何度も何度も読み返した単行本で…
 

—年季が入ってますね!

 
加藤:この前、親父が「あったよ」って見つけてきてくれたんです。表紙があると邪魔だから取って読んでいたくらい好きで。いつかこの作品をキャラメルボックスでやりたいとずっと思っていて、これができたら思い残すことはないくらいの作品です!…あ、でも新井素子さんの『ひとめあなたに…』がまだやってないね。あれも好きなんです。まぁでも原点という意味ではこっちですね。劇団に入ったのも『時をかける少女』があったからですし。
 

—これまでにタイムトラベルをテーマにした作品を数多く上演してきたキャラメルボックスだからこそできた世界初舞台化だと思います。

 
加藤:どっちが先か…なんですよね。キャラメルボックスという劇団はエンターテインメントファンタジーをやる劇団だって決めてスタートしています。ファンタジーというのは竜が出てきて冒険するとかではなくて、僕らが言うファンタジーは、ありそうだな、あったらいいな、あるかもしれない…という話を身近なところでやるというのがキャラメルボックスの世界観なんですよ。その題材としてタイムトラベルとか天使や幽霊が出てくるとかSF的な設定がうまく使えるかな、と。
 

—あくまでリアリティのあるファンタジーが軸になっている。

 
加藤:先ほど言った少年ドラマシリーズがやっていたようなものを一生やり続けていきたいという劇団なんです。
 

—その”リアリティ”が今回の舞台『時をかける少女』でも巧みに表現されていると感じましたが、それは決して簡単にできることではないですよね。

 
加藤:商業的な映画だと、大人の事情が絡むじゃないですか。それでやりたいことができないこともたくさんあると思うんですよ。僕らはそれがないので、やりたいことをやれているというか…。筒井康隆さんのこの作品の魅力を最大限に今表現するとしたらどうなるか、ということを成井は書いて演出したし、僕は選曲したし、役者たちもリアルにやってくれる。演技がリアルであればあるほどファンタジーは生きるんですよね。ハリウッド映画のファンタジーもの…例えば『E.T.』などスピルバーグ作品でも、役者の芝居がいいから気持ちよく騙されるんですよね。
 

—CGなど映像で色んなことができるようになっている現代だからこそ、リアルの舞台でしか表現できないこともあるのかなと思います。

 
加藤:舞台でも、プロジェクションマッピングとかを使うとタイムリープのシーンは、壮大なことができると思うんですよ。それはそれで面白いかもしれないけど、この劇団は違う。生身の役者が頑張る。今回の逆戻しのストロボ芝居などは、あれは1980年代の小劇場で用いられた手法なんですよ。当時「劇団電劇」の芝居を僕らは「すげーなー」と観ていて、そのときの演出方法を今使っている。でも今の高校生たちが見ると「あれどうやってやるんですか?」ってすごく喜んでくれるので。
 

—そうした手法はまさに「時をかけ」て、今だからこそ違った見方で見えて、単純に古いとか懐かしいではない魅力になりますよね。

 
加藤:おっしゃるとおり!(笑) 原田真二さんの「タイム・トラベル」なんて20代、30代の子は知らないですもん。でも、劇場であの音質、音量でかけると新曲に思えるんですよね。「誰この人?ハスキーな女の人ですか?」って高校生とかが言うんですよ。「あれは1978年の歌なんだよ」って言うとびっくりされます。当時の演奏がどれだけ良かったか、原田真二さんがどれだけすごい人だったか、ということだと思うんですけどね。
 

—「タイム・トラベル」にかけてと言うと強引ですが…今作『時をかける少女』の主人公マナツは17歳ですが、お二人の17歳の頃にタイムリープしてみたいと思います。それぞれどのような17歳でしたか?

 
西川:僕はサッカー部でしたね。ほこりと土にまみれて、演劇は観たこともきいたこともなかったです。僕は両親が公務員だったので、毎日同じことをするというのがDNAに組み込まれていて平気なんですよ。それが自分でわかっていたので、毎日違うことをするのがいいなと思って、新聞記者になりたいなとその頃は思ってました。
 

—なるほど。

 
西川:演劇は毎日同じことをするので皮肉なものだなと。でも、舞台は同じものは2つとしてないから、毎日違ってあきないもの、自分を使ってやれるものに出会えたのは幸せなことだなと思いますけど…17歳当時は想像もしなかったですね。
 

—役者になろうという選択肢は、17歳当時には全くなかったんですね。

 
西川:暗いやつらめ…と思ってました(笑)。演劇部は校庭の片隅で「アメンボ赤いな…」って発声練習していて、何を馬鹿なことを…お前たち汗をかけ!と思ってました。でも、僕の担任の先生が演劇部の顧問で、学内の公演を観に行ったんです。それを観て演劇に対する印象は変わりましたね。演劇だって青春だと。
 
加藤:僕はバリバリのロック少年です!中学2年生のときに放送部に入ってロックを知って、中3のときにFocusっていうオランダのプログレロックバンドにハマってました。先輩方にはロック好きが多かったので、THE ROLLING STONESとかDeep PurpleLed Zeppelinを浴びせられて、高校1年からバンドを組んでました。KISSAerosmithQUEENの初来日は全部観ていて、BOWWOWの衝撃的なデビューも知ってましたし、カルメン・マキ & OZのライブも行って…とにかくロック少年でした。演劇なんてね…男子校で演劇部はなかったし、むしろ中学の芸術鑑賞会で『夕鶴』を見せられて、二度と観るものかと。演劇なんて退屈だし大げさだし…
 
西川:それは同意見だな。
 
加藤:あんなものなんで世の中に存在するんだって(笑)
 

—組んでいたバンドのパートはどこでしたか?

 
加藤:最初はエレキギターで、高1の途中でドラムに転向して。みんなドラムを叩けなかったんですけど、僕は叩けちゃったので、ドラムをやることになったんですよ。みんなから「なんでできるの?」って。僕からすると「なんでできないの?」って。
 
西川:できないですね…右と左で違うことができるのはすごい。
 
加藤:その後、同級生に南こうせつオフコースが好きなやつがいて、その彼のお父さんが東京大学の教授で日本のシェイクスピア翻訳の第一人者だったんです。その影響で、「シェイクスピア・シアター」の芝居に連れて行かれて嫌々ながら観たら、それが面白くて!
 
西川:『夕鶴』からの振り幅がすごいね(笑)
 
加藤:渋谷の「ジァン・ジァン」っていう80人くらいが入る円形の小劇場で、衣装も小道具も殆んどない、Tシャツにジーパンでシェイクスピアをやるんですよ。それにハマって毎月のように観に行ってました。演劇にも面白いのがあるんだって知った、それが高校2年の頃ですね。
 

—ロックとシェイクスピアに魅せられた17歳だったんですね。

 
加藤:それが、ロック少年をやめるんですよ。高2の夏にその友人の影響で「オレやっぱこっちだわ」って、突然ロックからフォークに転向して、南こうせつオフコースをやるバンドのドラムになったんです。
 

—当時は演劇というより、音楽でメシを食っていきたい、みたいな…

 
加藤:いや、放送かな。ドラムの才能はないと思っていたし、僕は放送部の部長をやっていて、放送部の同期にはプログレロックのことを全部知ってるやつとか、1日3冊文庫本を読むような文才のあるやつとか、Ritchie Blackmoreのコピーにかけては誰にも負けないというやつとか…”一番”のやつが周りにいっぱいいて、自分は何もできないから一番のやつがいろんなことをやるのを「お前はじゃあこれをやって」と仕切るだけ、俺は何もできないからしょうがないから部長だねって。それがプロデューサーという仕事だということに後から気づいたんですけど。自分には特別な才能はない。根っからの裏方だなってことに気づきましたね。
 

「1公演で1000曲以上は必ず聴く」「演じてる側から言うと、曲がかかるのは屈辱」
キャラメルボックスがこだわる、芝居と音楽の関係
—キャラメルボックス作品の音楽に関して伺いたいのですが、ちょうどブログに「選曲の仕方」を書かれていらして…

 
加藤:大道具、小道具、衣装、香り…というやつですね。(参照:『高校生からいただいた、「選曲のしかた」へのお返事。』‐キャラメルボックス製作総指揮★加藤昌史「加藤の今日」
 

—演劇における選曲はやはり感覚的なものなんですね。

 
加藤:そうです。年間4~5本やっていて、毎回ゼロから考えていると持たないので、自分で区分けして考えています。
 

—「区分け」というのは、ご自身の中に色んなストックがあるということなのでしょうか?

 
加藤:例えば原田真二さんの「タイム・トラベル」は30数年間僕のストックの中にいたんですよ。いつか使ってやる!っていう曲はたくさんあります。今回は台本読み合わせの後に、(頭の中で)「タイム・トラベル」が鳴っちゃったんですよ。でもなー…ちょっとクサいかなー古いかなーって思って、改めて曲を聴いてみたらやっぱり合うので、成井に聴かせてみて。成井も心配で自分の子どもたちに尋ねたらしいんです。そうしたら「大丈夫」って。
 
西川:僕も初めて買ったアルバムが『Feel Happy』(1978年2月発売の原田真二1stアルバム)だったので、まさに自分の原体験!
 

—キャラメルボックスでは劇中曲はどのようなプロセスで決定していくのですか?

 
加藤:まず頭の中で浮かんだものを成井に提案して、その後稽古場で実際に曲をかけてみます。有坂美紀というロック好きな演出助手がいて、原案を僕たちで出した後、有坂が現場で選曲し、さらに僕も「これがいいんじゃない?」と口を出します。稽古場でかけてみてハマるかどうかが一番大事です。
 

—加藤さんが出したアイデアを現場で役者さんたちと一緒に練っていくという感じなんですね。

 
加藤:台本の読み合わせのときに役者の声を聞いていると、頭の中でトーンと曲がかかるんですよ。でも、みんながいやだと採用されないし…「タイム・トラベル」はどうだったのよ?みんなの反応は。
 
西川:曲は名曲ですよね。色んな思いがそれぞれあると思いますけど、いい曲ですよ。異論は聞かなかったので、そういうことだと思いますよ。
 
加藤:本当に気に入らないときはすぐに「あれはないでしょ!」って役者から言われちゃうので。あとは振り付けの川崎悦子先生から、ダンスに合うかという視点でも意見をいただきました。
 
西川:川崎先生も振り付けが終わった後に「この曲はいいわね」と言ってたので、そういう思いで作ってくださったと思います。
 

—そして「タイム・トラベル」以外にも実に様々な曲が使われていますね。曲数や配置も稽古をしながら決めていくのでしょうか?

 
加藤:通し稽古のときに「かけすぎだな」とか「こっちもほしいな」とかバランスを僕が取っていきます。
 

◆『時をかける少女』 曲目リスト

M01. プロローグ(ダンス)
M02. 再会
M03. ラベンダーの香り
M04. 忘れていた過去
M05. 室外機が落ちてきた!
 
M06. 2度目のタイムリープ
M07. 3度目のタイムリープ
M08. 和子の過去
M09. 深町一夫に会いに行く
M10. またしても!
M11. 夢
M12. 今度は世羅の上に
M13. 和子と深町
M14. 3日前へ!
M15. 輝彦の正体
M16. 神石の想い
M17. 別れ
M18. 思い出した!
「タイム・トラベル」 原田真二
「青い自転車」 川畑トモアキ
「SketchBook」 THE JETZEJOHNSON
「Little Bell」 川畑トモアキ
「Louder Louder feat. YOW-ROW from GARI」 KIYOSHI SUGO
「Imeruat」 IMERUAT
「signal」 plane
「きらり、ふわり、」 ミナワ
「AWAKE」 ARDBECK
「SketchBook」 THE JETZEJOHNSON
「風の絵」 paniyolo
「Neu」 Polaris
「Inner Stream」 üka
「スターチス」 MAGIC OF LiFE
「わたしのノスタルジア」 南壽あさ子
「Inner Stream」 üka
「Dancefloor」 サトウヨシアキ
「世界」 ハルカトミユキ

 

—それにしても加藤さんの「ストック」の多さには音楽の現場で物書きをしている自分としては頭が下がる思いです。

 
加藤:なんでしょうね。食事するのと同じレベルですよね。20代の頃は前向きにというか必死で聴いていたかもしれないですけど、今は必死じゃなくても聴いちゃうというか。街で流れている曲も「なんだこれ?」と思ったらShazam(=拾った音から曲名を検索できるiPhoneのアプリ)で調べてストックして…の繰り返しですね。
 

—Twitter(@KatohMasafumi)でも「#今朝の1曲は」、「#おやすみなさいの1曲は」を毎日欠かさず紹介していますよね。

 
加藤:お客さんからオススメの曲を教えてくださいと言われて始めて1年近く経ちますが、あの1曲を選ぶのに30分くらいかけてます。その30分間でものすごく色んな曲を聴くし。でも、それは芝居の選曲じゃない曲を聴こうと思ってるんですよね。芝居のための選曲は仕事なので、集中して聴き込みます。1公演で1000曲以上は必ず聴くので。それはモードが違うというか、別のところを動かしている感じです。
 

—プロの音楽ライターも顔負けの見識の広さだと思います。

 
加藤:いやいや…逆じゃないですか?狭いと思いますよ。
 

—そうですか?

 
加藤:音楽ライターの人は何でも知ってないといけないけど、僕の場合はキャラメルボックスに合うものという狭い世界なので、ジャンルは狭まっているんですよね。
 

—今作『時をかける少女』で個人的にグッと来たのは、ハルカトミユキの「世界」でした。最後ここでこの曲!と非常にしっくり来て。

 
加藤:あれは実は有坂の選曲で、僕は最初反対したんですよ。なぜかというと、2013年に上演した『雨と夢のあとに』でハルカトミユキの楽曲を使わせてもらったのですが、ハルカトミユキの歌声を聴くと、ダークなものを感じちゃうんですよ。イントロ始まっただけで「ハルカトミユキだ!」ってわかって先入観を持ってしまうので。でも改めて探したときに、あれ以上に合う曲が見つからなかったんです。で、そんなときにもう一度聴いてみようかと思ってネットで調べたら動画が見つかったんです。
 

 
加藤:動画を観て「絵に載るとこうなるのか!」ってガラッとイメージが変わったんです。ハルカトミユキはこの曲で何か一歩踏み出そうとしてるんだなというのを感じて、「だったら合うじゃん」と思って、これで決定しました。
 

—「世界」という曲には彼女たちの持つ暗さがなくなったなと私も感じました。

 
加藤:ねー。声は一緒でもその裏にある気持ちが全然違うんですよね。
 

—舞台に生演奏を取り入れたり、役者さんが演奏したり歌ったりするということについてはどのように考えていますか?

 
加藤:キャラメルボックスでも何度かやってますよ。『サボテンの花』とか、『無伴奏ソナタ』などでやってはいますが挑戦中ですね。ただ2012年に上演した『無伴奏ソナタ』は特別です。オースン・スコット・カードが原作で、音楽の天才が音楽を聴くことを禁じられてしまった世界という話で、この世に二つとない、誰も聴いたことがない曲を演奏するというシーンがあるんです。
 

—それは興味深いです!

 
加藤:そんな曲が作れるわけないだろうってことで、旗揚げの頃から原作は「一度やってみたいね」と話はしたものの舞台化不可能だと思ってたんですけど、SIBERIAN NEWSPAPERというバンドと出会って、あいつらならやるかもしれないと思って原作を読んでもらったら「やらせてください」って(笑)。SIBERIAN NEWSPAPERがいたから実現したんです。あれはすごかったなぁ…メンバーみんなで話し合って、みんなでこの世にない曲を作るぞ!ってなったんですって(笑)
 

—では、生音には消極的というわけではなく、そういう表現も選択肢の一つとしてはある、という…

 
加藤:相当なやつが入ってこない限り、やらせたくはないですね。役者が歌ったり演奏したりなんて、音楽ナメんなよ!って思ってしまう。
 
西川:日常で歌うじゃん!人間って。
 
加藤:それが演劇の考え方なんだけど、僕は嫌なんですよ。でも、渡邊安理という役者が入ってきて、彼女がびっくりするほどうまいんですよ。多田直人も。(ともに2004年入団)ミュージシャンとしてすごい!と思える人が最近入ってきたので、ようやくできるかなと思い始めてます。
 

—演劇の中での音楽の役割というか…音楽の全くない演劇は成立しないと思いますか?

 
加藤:いやいやいや、基本的に音楽なしでやりたいと思ってますよ。いつも。曲かけずにやりたいなとさえ思うくらいなんですけど、頭の中で鳴っちゃったらかけざるをえないというか…成井からも要求されるんでね。「ここに曲がほしい」って。
 
西川:演じてる側から言うと、曲がかかるのは屈辱なんです。自分の芝居がもたないから曲がかかっちゃうのだと。芝居で見せられれば余計な音はいらないんです。音があるとその世界観でお客さんは観るから、かけないほうが僕らにとっては「芝居やってるな」って思います。
 

—理想としては、役者の立場からすると音楽は全くなくてもいいんじゃないか、と?

 
西川:もちろんあって盛り上がるものもたくさんあるんですけど、余計もあるんです。人間の耳は全部を聴き取るわけじゃないので、音楽が入ってくるとその分セリフは減って、感情も減るんです。感動的なシーンに色んな音楽をかけたらシーンが違って見える。本当に信用されてるんだったら音楽はかからないんじゃないかなって思います。
 
加藤:エンターテインメントなので、面白いシーンをより面白く見せようとするための香辛料として使う、という考え方ではあります。芝居がダメだからそれを持ち上げるためにという考えは少なくとも僕にはないですね。
 
西川:かなり我慢をするようになったと思いますよ。加藤成井もそれぞれ、音楽のかけどころというか、かけ方が変わってきたと思います。今回の『時をかける少女』でも、稽古の段階で成井はほとんど曲をかけませんでした。曲なしでずっとやっていくと、自分たち役者は自分たちの思考で作っていけるので…音楽がかかるとそれに引っ張られるんですよ。甘えちゃうところもあるし。
 

—舞台のセット、美術品や小道具、衣装といったものの一つとして音楽がある、ということとは違うのでしょうか?

 
加藤:結局そうだよね?
 
西川:身にまとうという意味では、衣装と同じという感覚はあります。譜面は読めないけどイメージとしては五線譜の上に自分が立っていて、そこに音符が流れていて、この音符の隙間で自分はどう動こうかと考えると、自分が想像していなかったものが出てきます。その点では音楽の力はすごいと思います。
 
加藤:わかるわかる。
 
西川:でも、自分たちで何とかしたいときもあるんですよ。
 
加藤:いいじゃん、どんどん言っていけば。
 

—今回の『時をかける少女』ではのべ18曲を使用していますね。

 
加藤:12でいい。かけて12曲だと僕は思ってるんですけど、増えちゃうんですよね。
 
西川:演劇の難しいのは、大きなスピーカーで聴くと印象が全然違うんです。そこは加藤はちゃんとイメージしてる。稽古場では印象に残らなかった曲が、本番に(出番待ちの)舞台裏で聴いたときに「なんでこんなにハマるんだろう」って驚きます。自分たちにはわからないものを選んでるんだなと思います。
 
加藤:もちろん、劇場のスピーカーで出る音を想像して選んでます。ましてオリジナル曲はデモの段階で音源をもらうと、シャカシャカペラペラした曲なんですが、僕は完成形を想像して、さらに劇場のスピーカーを想像して、それでセレクトするので、成井とかが「この曲ダメだよね」と言うと「ちょっと待て!」って(笑)
 
西川:完成形は僕らにはわからないんだよね。
 
加藤:音圧っていうんですか。レンジも稽古場と本番の舞台のスピーカーとでは全然違うはずで、それを本番の舞台でいじってる音響さんも、もう一人の役者だと思っています。セリフを喋ってるみたいなものなので。
 

—30年続けているとお客さんも幅広い世代が多いと思うのですが、音楽に関して最近多い反応、反響などはどのようなものがありますか?

 
加藤:お客さんの年齢層がどんどん広がっていき、特に下の世代が下がってきているので、中高生のバリバリ演劇部の子たちの反応がビビッドなんですよね。だから、彼らに原田真二さんを聴かせたいというのはありますね。これが俺たちの青春なんだぜ、でも気づかれないようにかけちゃおう、みたいな。あとは「世代を超えた」ということで言うと…南壽あさ子さん!
 

 

—今回起用された「わたしのノスタルジア」も、透明感があってとても良い曲ですよね。南壽さん自体元々存じていましたが、実は今回、家に帰って曲目リストを見るまで気づかなかったんですよ。劇中に南壽さんの曲が流れていたことに。

 
加藤:あ、そうですか?
 

—お芝居を観ている最中は「今流れてるのはあの曲だな」って気づかないものなんだなと思いました。

 
加藤:いいんですよ、それで。それが目標です。音楽が印象に残らない芝居を作りたいんです。それが「芝居と音楽が同化している」ということなので。だからむしろ、「あの曲良かった」と言われたくないんです。原田真二さんだけは言われたいですけど(笑)
 

「ももクロ・有安杏果がかぶる」
入団3年目・21歳の主演女優木村玲衣の底知れぬ実力

 
 
 

—ところで今作『時をかける少女』では入団3年目・21歳の木村玲衣(れい)さんが主演に大抜擢されましたが、キャラメルボックスと30年歩んできたお二人の視点から、木村玲衣という役者をどのように捉えていますか?

 
西川:主役をやると決まる前と決まった後は、彼女の取り組み方が全然違っていて、おそらくこの公演の本番にピークを合わせて色んなことを準備してきている。ダイエットも含めて。舞台に立つという心構えも自分の中で段階を踏んでいて…前々回、『パスファインダー』でリンというかなり重要な役どころを演じて、出番も多かったんですが、彼女の中ではまだ舞台に立つのが怖かったように思います。その後、『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』では少年役をやったのですが、楽しくやるということを周りのメンバーから教わって、それを足して今回の主演に臨み…稽古が始まって間もなくして、別人になりました。
 

—別人ですか?

 
西川:開き直ったんです。何があっても私がやるしかない。逃げる場所がない。そういうとき人間は強いんです。きょう(=インタビューを行ったのは公演6日目の8月2日夕方)も裏で見ていて、「ああまた一段階上がれるな」って思いましたね。人は抱えきれないものを抱えて、やってしまうことがあるんです。ちょっと前に初舞台を踏んだ木村玲衣は、もうどこにもいないです。ものすごいスピードで階段を上がっている最中だし、もっと上がっていけると思います。
 

—キャラメルボックスは21歳から52歳まで本当に家族のような演劇集団で、その中で木村玲衣さんには主演というプレッシャーもありつつ、共演者が支えてくれるという安心感も同時にあるのかなと思います。

 
西川:今作のメンバーは割とベテランが多いのですが、みんなそれぞれ初主演を経験していて、それをみんな思い出していると思います。自分で「私、主役やりたい」と言ってなれるものではなく授かりものなので。木村玲衣は今素晴らしい経験をしている最中だし、それがいい作品で本当に良かったなと思います。
 

—確かに、今作ではストーリーと同時並行でドキュメントがありますよね。尾道マナツが成長していく様と、木村玲衣という一人の役者が成長していく様がリンクし、とてもリアリティがあって、それも心に強く響きました。

 
西川:成井の脚本もすごいのだと思います。ラストのあるセリフが、脚本には(笑って)と書いてあって、僕は彼女に「(笑って)って書いてあるけど、泣き笑いなんじゃないか」って言ったんです。笑いながら涙がこぼれてるかもしれない、って。でもその後成井が「あれは笑い飛ばす感じなんだ」と言っていて、まさかそこでお客さんが笑うとは僕も想像していなくて。全てを吹っ飛ばすという、ものすごい一行なんだなって、本番が明けてから教えてもらって、感服しました。
 

—そうだったんですね。

 
西川:最初の脚本ではあったセリフを全部削ったんです。それは、30年成井の脚本でやってるけど、読み取れてなかった。僕は「泣き笑いかもしれない」と思ったけど、木村はそうじゃなくて、スカッと笑い飛ばす演技をしていて、ああそうなのかと驚きました。僕のアドバイスさえ越えていっている。僕の30年を返してほしい(笑)
 
加藤:でも、あの言い方は3日目くらいから変わってきたよね。
 
西川:そうですね。ちょっと変わりました。
 
加藤:初日、2日目は演出通りにやっていたのが、3日目に突然ああなったんです。びっくりした!
 
西川:自分の中で腑に落ちたんだと思います。
 
加藤:お客さんのリアクションで、「こうだ」って自分の中で確立したんでしょうね。木村を観ているとももいろクローバーZを思い出すんです。あのバンド…僕はももクロはバンドだと思ってますけど、あのバンドは超エリート集団の中にいるダメなやつを集めて、女優志望なのに無理やりアイドルをやらせてみたというところが起点なんです。本人たちも雑草であることを知っていて、頑張っていたらブレイクした、紅白に出られた…おそらく、自分たちで未だに現実感がないと思うんです。『幕が上がる』(ももいろクローバーZの主演映画)を観ていても「ここまで頑張らなくてもいいのに」っていうくらい全力で。その後、夜中のテレビ番組「ももクロChan」を観ていても、到底売れている人たちの態度じゃない。
 
西川:うんうん。
 
加藤:謙虚すぎる。もうちょっと調子に乗っていいはずなのに、全く乗っていない。特に緑の有安杏果なんかは「明日はもうだめになってる」と思いながら今日を生きてるんですよ。百田夏菜子はリーダーだからそういうところを微塵も見せないようにしてるけど、きっと思ってると思いますが、みんなものすごく自信がなくて、「今日手を抜いたら明日はない」と本気で思ってるんです。その有安杏果が、木村玲衣とかぶるんですよ。きっと木村はこのまま自分のことが信じられないまま、お客さんだけがヒートアップしていくっていう(笑)
 
西川:自己評価が低いままにね。
 
加藤:周りからの評価がどんどん上がっていく中、彼女の場合は慢心しないで行ってくれるんだろうなと信じてます。
 

—この舞台で燃え尽きる…という気迫さえ感じます。

 
加藤:そうは言っても先のことは考えているはずですよ。彼女の夢はキャラメルボックスに入ることだったけど、入ったところから次の目標が絶対あるはずで、それは聞いてみたいけど。今のことだけを考えていたらあんな芝居はできないと思います。もっと自分を良くしたいというか、この先輩たちに今はお世話になっちゃってるけど一緒にやれるところまでいきたいという、そういう欲だと思います。先輩とキャッチボールしたい、できない…でもちょっとずつできてるじゃん?と。それが恐ろしい。
 
西川:この(本番が始まってからの)一週間でも、ものすごく変わりましたね。驚きますよ。
 
加藤:毎日いらっしゃるお客さんも現れるくらいで。
 

—わかります!私も二回拝見しましたが、できるならもう一度、二度、観たいです。30周年の挨拶を書いたブログ(参照:『30回目の劇団結成記念日のご挨拶』‐キャラメルボックス製作総指揮★加藤昌史「加藤の今日」に「2011年以降の急激な社会の変化に翻弄されてその活動は窮地に立たされています。」という一文があって、ハッとしました。

 
加藤:震災の後、お客さんの数が伸びないどころか減ってきているんですよ。それで切羽詰まっていて、公演についても期間を減らして公演数はキープするということをせざるを得なかったり。…劇場で、お客さんの前でそういう部分は絶対に見せないですよ。だけど、裏は本当に大変です。そういう大変な状況のときに、21歳の若者がね、この状況で「お前にかかってるんだよ」って言われてるわけじゃないですか。無理無理!僕だったら絶対逃げる。
 
西川:そうですよね。あなたなら逃げるでしょうね。…僕も逃げます(笑)
 
加藤:だろ?
 
西川:大変なことですよね。
 
加藤:でも、ここまで一週間やっちゃったっていうのはすごいことですよね。
 

—本当にそう思います!女優・木村玲衣の壮大なドキュメンタリーを目の当たりにしている。

 
加藤:劇団をやっていて一番嬉しいのはそこですよね。よく「化ける」って言いますけど、役者が化けた瞬間を見せられる…お客さんに成長を観ていただけることが劇団の一番の楽しいところだと思います。1992年に『また逢おうと竜馬は言った』という作品を聖蹟桜ヶ丘のアウラホールで初演したときなんですけど、その初日にも役者が化けた瞬間を僕、目撃したんですよ。通し稽古でもだめで初日に叱られて…ぶっ飛んじゃったんですね。「変わった!」っていう瞬間を見てしまって、これだ!って。
 
西川:イメージですけど、役者は階段があって、多分それは自分の近くは見えてるけど、先は見えないんですよ。透明だから…だけど、きっとそこにある。それを普通は怖いから上れないんだけど、えいや!って上ると、その後、後ろに下がることはない。先しか見えなくなって。そういう瞬間が間違いなくあるんです。今まで怖がっていたものが、正体のないものだったって。そこにはちゃんと自分が踏むべき階段があるって気が付く。そうすると上は長いよということもわかる。それまでは怖いから踏み出せない。玲衣ちゃんは今はそういう段階にいると思います。
 

—私たち観客は凄まじい瞬間を見せられてしまったわけですね。

 
加藤:そうですよ!Jimi Hendrixが歯で弾いた瞬間を見たような。
 
西川:よくわからないけど(笑)
 

現在上演中!!
◆キャラメルボックス30th vol.3 『時をかける少女』


【原作】
筒井康隆
 
【脚本&演出】
成井豊
 
【キャスト】
木村玲衣 西川浩幸 坂口理恵 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 三浦剛
左東広之 鍛治本大樹 金城あさみ
毛塚陽介・関根翔太(ダブルキャスト)
近江谷太朗 池岡亮介
 
【公演日程】
東京公演
2015年07月28日(火)~08月09日(日)【東京】サンシャイン劇場
平日ステージ S席(1階・指定席)7,000円 A席(2階・自由席)5,500円
土日ステージ 全席指定 7,000円
 
大阪公演
・2015年08月20日(木)~24日(日)【大阪】サンケイホールブリーゼ
全席指定・税込 7,000円
 
【チケット購入】 キャラメルボックスHPへ
http://www.caramelbox.com/stage/halftime2015/

◆演劇集団キャラメルボックス 次回公演のご案内
キャラメルボックス2015ハーフタイムシアター

 
2015half
『水平線の歩き方』
【脚本&演出】
成井豊
【キャスト】
岡田達也 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 実川貴美子 小多田直樹 原田樹里 近藤利紘
 
『君をおくる』
【脚本】
岡部尚子
【演出】
真柴あずき
【キャスト】
実川貴美子 岡田達也 岡田さつき 前田綾 大内厚雄 小多田直樹 原田樹里
 
【公演日程】
東京公演
2015年10月8日(木)~12日(月・祝)【東京】東京グローブ座
1作品券 S席(1・2階)5,000円 A席(3階)4,500円
2作品券 S席(1・2階)10,000円 A席(3階)9,000円
 
2015年10月16日(金)~18日(日)【大阪】サンケイホールブリーゼ
1作品券 5,000円
2作品券 10,000円
 
★8月2日(日)AM10:00~前売開始
http://www.caramelbox.com/stage/halftime2015/

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http://www.caramelbox.com/

 

 
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