今夜のステージは、THE IRON MAIDENSのO.Aとして、2つのバンドがサポートすることになっている。まず登場するのは、GIRLS HEAVY METALシーンで頭角を現しているMary’s Blood。まだ若いバンドだが、キャリアのあるメンバーで結成されているので、演奏力には定評がある。THE IRON MAIDENSを観に来たIRON MAIDENファンへのアピールも十分。「Coronation Day」「Veronica」「XOXO～fast ver.」「Paranoid Delusion」「イジメ、ダメ、ゼッタイ（BABYMETAL Cover）」の5曲を披露。
 
小さい身体から恐ろしいパワーを叩き出すMARI、客席を見つめながら涼しげにフレーズを奏でるRIO。ヘッドバンギングをしながら難解なソロを弾くSAKI。パンチのある声でオーディエンスを魅了するEYE。Mary’s Blood の楽曲は、HEAVY METAL好きのツボを押さえた構成で、初めて観た人の身体も動かしてしまう。オープニングで静観していた後方のオーディエンスも、3曲目には腕を振り上げている。都内のライブハウスではワンマン活動をしているMary’s Bloodだが、新しいファンを作ることにも今夜成功したのではないだろうか。

続いて登場するのは、HATTALLICA 。METALLICAのトリビュートバンドとしては、日本で一番有名なバンドだ。数々のイベントに参加し、大きなステージも経験しているが、その実力は折り紙つき。SEが流れると、会場から歓声があがる。IRON MAIDENファンにとっても、METALLICAは好きなバンドだろう。どことなく本家METALLICAのオーラをまといながらメンバーが登場すると、METALLICA愛を共有しようとするオーディエンスが一斉に拳を突き上げる。「battery」「creeping death」「whiplash」「enter sandman」「master of puppets」の5曲を披露。
 
曲間でドラムから離れ、ステージ前方まで来て客席をあおるHitoshi Ulrich。ステージ下手で全身を使ってプレイするMinolson Newsted。テクニカルなフレーズを弾きながら、独特の色気を振りまくKirz Hammett。フロントマンとして、HATTALLICAを引っ張るJames Hirofield。演奏も素晴らしいが、演者としてオーディエンスを見事にノセるステージングが、とても優れている。トリビュートバンドの中でも、桁違いの実力を備えているのではないだろうか。もっと観たかったのだろう、終演後の客席には、どこか物足りない顔をしている人を多く見かける。

IRON MAIDENのライブスタートを知らせるナンバー、UFOの「Doctor Doctor」が流れると、会場が異様な興奮状態へ。いよいよTHE IRON MAIDENSの時間だ。IRON MAIDENもカバーした「Doctor Doctor」のシンプルな英詞は、日本人のHARD ROCK / HEAVY METALファンにはお馴染みで、1曲まるごとオーディエンスがシンガロングしている。大歓声の中、Winston S Churchillのスピーチ、そして「Las Angels ! California ! THE IRON MAIDENS !」とアナウンス！ついにTHE IRON MAIDENSのメンバーが登場！ 最前列のファンに、上手ギタリスト、Courtney Cox（以下Courtney）が笑顔を届ける。下手ギタリスト、Nikki Stringfield（以下Nikki）はメロイックサインの交換をしている。
 
ベーシストのWanda Ortiz（以下Wanda）が、ドラマーのLinda McDonald（以下Linda）とアイコンタクト。Lindaが、「さぁ、やるわよ！」という表情をして、スティックを持った右手を高く上げる。オープニングナンバーは鉄板の「Aces High」だ！弦楽器の3人は、フレットを押さえる指先など見ずに、客席を見渡してオーディエンスの反応を確認している。ステージ後方のスモークマシーンから白煙が発射されると、レザージャケットを着たボーカリストKirsten Rosenberg（以下Kirsten）がステージ上手から飛び出してくる！両手を広げてオーディエンスをあおる。熱き声援がTHE IRON MAIDENSに届いたのだろう、フロントの4人が全員ステージ最前列に来て笑顔を見せる。
 
「Aces High」のAメロの部分は、弦楽器とユニゾンとなるため、低いメロディの歌がライブでは聴こえにくいこともあるが、Kirstenの歌は、とてもクリアに聴くことができる。そしてサビのハーモニーは、LindaとCourtneyが完璧にキメてくる！カッコいい！ギターソロは本家Dave Murrayの前半パートをNikkiが弾き、本家Adrian Smithの後半パートをCourtneyが担当。Kirstenの歌は低いメロディから高音まで、滑らかに伸び、彼女の持つポテンシャルの高さに脱帽だ。Wandaは本家Steve Harrisがやるように、ベースを客席に向けて大きく口を開けて歌う。エンディングではKirstenがマイクスタンドを片手で持ち上げ、客席へ向ける。「Scream for me ! TOKYO !」
 
Kirstenが「コンバンハ！」と叫び、「2 Minutes To Midnight」へ。弦楽器の3人は激しく頭を振り、Kirstenが客席をじっと見ながら歌い、サビで手招きをする。それに応えるかのように、オーディエンスが大きなシンガロング！2番のAメロの部分で、Courtneyが下手へ移動、そしてWandaが上手へ。Nikkiがセンターに陣取って頭を振りながらポーズをキメる。Lindaはバンドの監督のように、メンバーの動きを目で追いながらも、激しいドラミングで魅せる。特に、シンバルを打つ時のキレのあるアクションが最高にカッコいい！エンディングの演奏をバシッと止めて、Lindaが立ち上がる。見た目はエレガントで美しいシルエットの女性なのに、ドラムの上手さは半端じゃない。天は二物を与えてしまった！

続いて「Flight of Icarus」。Wandaが身体を左右に揺すりながらリズムを刻む。サビのハーモニーも、Wandaが担当。本家Bruce Dickinsonがするように、Kirstenがサビで腕を高くあげる。Kirstenの歌は、若き日のBruce Dickinsonの艶とパワーが乗り移ったかのようだ。世界中のIRON MAIDENのトリビュートバンドのボーカリストは、多くの人が上手に歌うのだが、100％の力を出して歌っているように感じる。Kirstenが凄いのは、80％程度の力で歌っていて、まだ使っていない部分があるのが、ステージから伝わってくることだ。IRON MAIDENの歌は、どれほど歌うのが大変なのか、一度でもコピーやカラオケをしたことがある人ならば理解できるはずだ。本家が認めたKirstenの歌唱力は、それだけ桁違いなのだ。
 
エモーショナルなギターソロは、前半のDave MurrayのパートをNikkiが、後半のAdrian SmithのパートがCourtney。完全に割り振りがなされている。Courtneyは激しくギターのボディを叩くアクションをしながら、陶酔したセクシーな表情を魅せる。Nikkiがエンディングで上手に移動し、Courtneyと肩を並べる。これほど色気を感じるツインリードギターがあるだろうか！そこにKirstenの天を裂くかのようなハイトーンシャウト！完璧な「Flight of Icarus」だ。演奏が終わった瞬間に、もう一度観たい！と思ってしまうような素晴らしさ。Kirstenの「アリガトウ！」から「Revelations」がスタート。出だしの“Yeah!”で、Wandaが右手を大きく振り上げる。Bruce Dickinsonと同じタイミングで、Kirstenがオーディエンスをあおる！曲間のブレイクでは、オーディエンスだけでなく、会場のスタッフまでが叫んでいる！
 
HARD ROCK / HEAVY METALシーンを代表するベーシストのSteve Harris。IRON MAIDENのリーダーとしても絶大なる人気を誇るが、Wandaのプレイは同じ2フィンガー。アグレッシブなフレーズから、「Revelations」のようなメロディまで上手にトレースしている。筋金入りのSteve Harrisファンも、本家公認のWandaには、一目置いているのかもしれない。ギターソロでは、弦楽器の3人がセンターに寄り、肩を寄せ合う。しかし手元を見ずに、目線は常にオーディエンスへ向いているのが凄い。大歓声の中、「22 Acacia Avenue」へ。CourtneyがAdrian Smithと同じく、身体でリズムを取りながら、フレーズを刻む。Lindaが、曲間のブレイクで、本家Nicko McBrainがよくやるように、口から息を上に吹き、前髪をふわっとさせる。
 
THE IRON MAIDENSは、もちろんIRON MAIDENではないわけだが、なぜ本家が認めたのか、ステージを観れば誰もがわかると思う。演奏力だけいえば、世界トップクラスのスタジオミュージシャンなどが集えば、似たようなこともできるだろう。しかし、そこにIRON MAIDENへの深い愛がなければ、何の意味もない。THE IRON MAIDENSのメンバーは、その愛の量が凄く、結果的に誰も到達できないレベルまで、バンドを昇華させているのだと思う。THE IRON MAIDENSのステージを観ていると、IRON MAIDENへの愛におぼれそうで、IRON MAIDENファンには、それがとても心地よい。だからこそ世界中で彼女たちを求める声が増え、トリビュートバンドなのに、ワールドツアーを実施しているのだ。

そしてTHE IRON MAIDENSは、小道具にもこだわっている。本家公認ゆえに、IRON MAIDENのキャラクターEddieに、リボンを付けたBettyというキャラクターを使用している。ステージ上部にかけられた印象的な幕やステージの生首はEdwina、その他にもCharlotteというキャラクターがいるようだ。弦楽器の3人のアンプスピーカーにも、イラストが描かれた布がかけられている。Lindaのドラムセットの左右には、通称女性シンボルマーク（正しくはアンクという古代エジプト象徴図像で”生命”を意味するの）をIRON MAIDENチックにしたオブジェが設置されている。演出面でも徹底していて、IRON MAIDENのステージでお馴染みの大きなモンスターやEddieが、THE IRON MAIDENSのステージでも登場するのだ。「The Trooper」が始まると、KirstenがBruce Dickinsonと同じ赤いジャケットに着替え、ユニオンジャックの旗を持って登場。印象的なリフに合わせて、旗を大きく振る！
 
Wandaはモニターに足をかけて、「The Trooper」でSteve Harrisがするように、ベースをマシンガンのように持って攻撃的なフレーズを奏でる。Kirstenはギターソロで、ユニオンジャックの旗を、日章旗に変えて振りまくる！ハーモニーは、WandaとLindaが担当だ。ステージセンターに弦楽器3人が寄り、離れていくシーンも、IRON MAIDENのステージを彷彿させる。エンディングでは、Kirstenがユニオンジャックと日章旗を二つ持って左右に大きく振る！間髪入れず「The Duellist」へ。Kirstenのハイトーンが心地よい。息の合ったCourtneyとNikkiのギターソロのハモりに、Wandaのベースが踊る！気がつくとKirstenは、袖なしGジャンに着替えている。THE IRON MAIDENSの土台を支えているLindaが、頭を少し振りながら派手なドラミング！
 
続けざまに「Wasted Years」のイントロへ。Courtneyはレッドヘアーを激しく振りながら、時々セクシーなポーズで、最前列の男性オーディエンスを魅了！前曲と同じに、ハーモニーはWandaとLindaが担当だ。ギターソロではIRON MAIDENのステージと同じに、ライフルを持ったEddieが登場し、Courtneyのギターで打たれ退散するという演出がされる。Kirstenが「アリガトー！」と叫び、MCへ。5年ぶりの来日の話や、O.A.を務めたMary’s BloodとHATTALLICAへ敬意を表す。そして静かに「Alexander the Great」のイントロへ。リズムがオンすると、オーディエンスも拳でリズムを刻み出す。Wandaはステージ上手のモニターに足をかけ、ベースのネックを客席へ突き出し、Steve Harrisのお得意ポーズをキメる！ステージ下手には、Wandaを引き立てるように、NikkiとKirsten、そしてCourtneyが集う！
 
Kirstenは頭の上で大きく手を叩き、オーディエンスを一つにする。複雑な構成とフレーズで組み立てられた「Alexander the Great」は、勢いだけでは演奏することができない。正確に、そして熱くプレイするTHE IRON MAIDENS。バンドの実力を問われるナンバーだが、素晴らしい！の一言だ。Lindaのパーフェクトなドラムが、バンドが出す最後の一音までしっかりとまとめている。Courtneyが次のナンバーのイントロを奏でる。「Purgatory」だ！黄金期であるBruce Dickinson時代の作品がレパートリーに多いのは当然の流れだが、IRON MAIDENと同じに初期のナンバーもセットリストに入っているのはうれしい。「Purgatory」は1981年に発表となった2ndアルバム『KILLERS』に収録されているが、今から34年も前のナンバーとはまったく感じない！

IRON MAIDENの音楽性は、例え50年100年経っても、色あせないかもしれない。初期の作品を聴くと、特にそう思う。THE IRON MAIDENSの「Purgatory」は、Kirstenがハイトーンの部分を増やしているのも良い。実に聴き応えがある。そして、ステージの両端から炎（に見たてたライトと布）が立ち上がると「The Number of the Beast」へ。Courtneyが刻むギターフレーズに、Bruce Dickinsonの節回しをトレースしたKirstenの声が響き渡る！ステージにスモークが発射され、赤いビーストが登場！ステージ狭しと駆け回る！ギターソロ前半のDave Murrayのパートは、Nikkiが黒髪を振り乱して弾き、後半のAdrian Smithのパートは、Courtneyがオーディエンスを見ながら笑顔で弾いている。
 
初期IRON MAIDENの中では、最高にぶっ飛んでいるナンバー「Phantom of the Opera」がスタート。オリジナル作品を聴いた時のインパクトを思い出す。弦楽器と歌のユニゾン、そして本家Paul Di’AnnoとSteve Harrisのハーモニーに心奪われた、プログレでパンクなHEAVY METALソング。Linda のリズムは、本家Clive Burrの少し軽快なスタイルではなく、Nicko McBrainの叩く重めなスタイルだ。Steve Harrisのハーモニーは、Courtneyが担当。続いてKirstenが大きく左右に両手を振り、大作「Fear of the Dark」へ。IRON MAIDENのライブでも、オーディエンスの声が大きくなる名曲だ。ここでもLindaのスティックワークに目がいってしまう。一つ一つのフレーズに魂をこめて叩いているのがよくわかる！静と動の切り替わりが魅力の「Fear of the Dark」がセットリスト最後のナンバーのようで、メンバーが舞台袖へ消える。
 
オーディエンスの熱烈なアンコールに再登場したTHE IRON MAIDENS。Kirstenが楽器のメンバー紹介をする。まずはステージ下手のNikki。客席からの“Nikkiコール”に大きく手を振る。そしてステージ上手のCourtney。缶ビールを片手に深く頭をさげる。続いてTHE IRON MAIDENSの要、Linda。ドリンクを手に乾杯のポーズ。最後はWanda。頭を軽く下げて、ちょっと恥ずかしそうにしている。Courtneyがマイクを持ち、圧倒的なボーカルを披露しているKirstenを、コミカルな感じに紹介する。オフィシャル情報に書いてあった“ステージを離れたら普段はごく普通のアメリカン・ガールズ”というのが、わかる気がする。イントロのDave MurrayのパートをNikkiが爪弾き出すと、アンコールナンバー「Hallowed Be Thy Name」が静かに始まる。
 
ステージには斧を持ったモンスターが登場し、幻想的な「Hallowed Be Thy Name」を演出する。Steve Harrisがするように、オーディエンスを見ながら、Wandaが頭上で手を叩く。ライブでNicko McBrainが魅せるキレのあるタイトなリズムをLindaが完全再現。ブロンドのロングヘアーという共通項もあり、どことなく本物を観ているかのような錯覚に陥る。そして弦楽器の3人がステージセンターへ。IRON MAIDENのライブも、弦楽器のメンバーがステージセンターによく集まるが、THE IRON MAIDENSも同じように何度も集っては離れていく。Kirstenの最後のMCへ。招聘の関係者やツアーに帯同したスタッフを労う。そして集まった多くのIRON MAIDENファン、オーディエンスへ「ドモアリガト！」。

もう一曲IRON MAIDENが聴きたい？と問うKirstenに、大きな歓声！日本公演最後のナンバーは「Run to the Hills」。Lindaのハイハットに合わせて、オーディエンスの拳がステージへ。イントロが終わると、スモークが発射され、ライブはクライマックスへと向かう。サビのハーモニーはLinda、そしてCourtney？と思いきや、マイクに近づいたWandaに、あなたが歌いなさいよ！と笑顔で肩に触れるCourtney。Nikkiがギターソロを弾き始めると、上手からEddieが登場！Courtneyのギターに手をかける！そしてゆっくり下手へ移動し、Kirstenと指先をからめて遊ぶようなシーンが！さらにステージ前方へ移動し、最前列のオーディエンスとタッチする！実にフレンドリーなEddieだ。
 
Wandaの攻撃的なベースフレーズが気持ちいい！Kirsten最後のサビを歌いだすと、Nikkiがモニターに足をかけ、オーディエンスをあおる。スモークがステージへ発射され、エンディング！Kirstenが最後に「アリガトゴザイマシタ！」と叫ぶと、メンバー全員がステージ前方へ。Courtneyがギターピックとリストバンドを客席へ投げる！つかもうとするオーディエンスの手が揺れる！Nikkiもピックを会場へ。Kirstenもリストバンドを会場へ！そしてメンバー用のセットリストが書かれた紙をはがし、メンバー全員で紙を前列のオーディエンスに渡す。Courtneyは汗をふいたタオルまで渡している。サービス満点だ。Lindaは少しお茶目にリストバンドを後ろ向きに会場へ投げる！それを見てNikkiも後ろ向きにリストバンドを会場へ。
 
ライブ終了のひと時をオーディエンスと楽しむメンバーだが、Wandaだけは笑いながらドラムの前でじっとしている。そんな様子に気がついたCourtneyが、あなたも投げなさいよ！とWandaをつっつく。Wandaはリストバンドを外して優しく会場へ投げる。Wandaのそれが欲しかったオーディエンスの手が大きく揺れる。最後は全員で手をつないで頭をさげ、客席をバックに記念撮影。手を振り舞台から立ち去るTHE IRON MAIDENS。これにてライブは終了。しかし、この後はファンサービスの時間が待っているのだ。ライブ前にグッズを購入してくれた人に、サイン会と写真撮影会を設けている。終演後、わずかな時間で身支度を整えたアメリカン・ガールズは、テーブルに並んで座ると、長蛇の列のファンに笑顔で応えはじめる……。5年ぶり、二度目の来日は大成功！今から三度目の来日が楽しみだ！THE IRON MAIDENS！