演奏

ハイコレ100 遠藤賢司VSノントロッポ

TEXT:熊崎太志 PHOTO:tue

2009年11月3日、福岡のVoodoo Loungeにて『ヨコチンレーベル』主催のイベント、「ハイコレ100」が開催されました。『ヨコチンレーベル』は、福岡のインディーズレーベルで、Nontroppo“以下ノントロッポ”のBogey(Vocal & Guitar)“以下ボギー”が1996年に設立しています。記念すべき100回目のイベントをレポートしたいと思います!

デビュー40周年の巨匠遠藤賢司“以下エンケン”を迎え、ノントロッポとVSという形で開催されます。ボギーいわく、音楽を始めたきっかけのひとつがエンケンだったそうです。『中津川フォークジャンボリー』で、「夜汽車のブルース」を猛烈に歌うエンケンをTVで見て、初めてアコースティックギターを手にしたのが18歳の頃。ボギーにとって、このイベント「ハイコレ100」はまさしく感慨深いイベントと言えるでしょう。

ノントロッポは1999年に結成。福岡が誇る、楽園の無国籍トロピカルニューウェーブサンバジャズタブトランスアヴァンダンスバンド。福岡のオルタナ系インディズシーンの将軍的存在のバンドです。ボギー以外のメンバーは、Hikaru
Watanabe
(Guitar)・Nonchelee(Bass)・Chang(Drums)。ノントロッポのステージは、架空のリゾートに鳴り響く「New New Resort」でスタート。スティールドラム風のエフェクトがゆったりと楽しい。

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ボギーのBlogには、「ノントロッポやってて思うのは、みんなそれぞれの自分のリズム、自分のノリで踊ってくれてるのがよくわかる。みんな同じ動きで踊るライブって気持ち悪くてイヤなんだけど、そういう踊り方してる人、どこにもいない。 これはとっても嬉しいことだ。」という一節があります。このコメントが、まさにノントロッポというバンドを象徴していると思います。

曲は「Smile」「セックスマンボ」でリズム天国へ突入。物凄い盛り上がりです。バンドのテンションは全開で、フロアは常夏の楽園のよう。4曲目はフィッシュマンズ風の「ゲーマー」。物憂げな夏の夕方を思い出させるナンバーです。続いてMCと朗読。エンケンの「純音楽」との出会い、人間「エンケン」との出会い。そして「青春」と書かれたノートを取り出したボギーが、詩を朗読しました。はじめてエンケンのライブを見て、それを題材に19歳の彼が作った歌の歌詞です。残念ながらメロディは忘れたそうです。

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■遠藤賢司に捧げる歌(ノート「青春」より)

日本で一番筋の通った男を見に行った
まぎれもなく不滅の男が目の前に立ってた
眉間に刻まれた深いシワはでっかい威圧感そのものだった
彼に勝るものが何ひとつない自分をみつけた
歌が心に染み 目に涙にじみ ちびりそうだった
憧れとか尊敬とかのレベルじゃなく ただ彼が神様にみえた
はち切れんばかりの感動に言葉も忘れて
いても立ってもいられずに 僕はTシャツを買った

照和で録音した今日のテープを彼に渡した
すっかり舞い上がって僕は彼に握手を求めた
そしたら彼はこう言った
「お互いミュージシャンとしてこれからも頑張ろう!」
はち切れんばかりの感動に言葉も忘れて
いても立ってもいられずに 僕はTシャツを買った

6曲目はノントロッポ代表曲のひとつ「ナイト・オブ・トロピカリア」。この曲のスティールパン風のキャッチーなテーマフレーズが聞こえてくるたびに、僕の心は「やったー!」と声をあげ、踊り狂ってしまいます。そして思うのは、「本当に楽しいときは悲しいのだな」というわけの分からない境地に達します。言うなれば絶対矛盾的自己同一です。悲しくないと、楽しくないような、そういうことをこのバンドは音で表現していると感じました。

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続いて「BON-ODORI」でオーディエンスに、「だせー踊りを(歌詞より)」踊る自由を獲得させ、ラストには「赤い彗星」をプレイ。ダンディにビシっとステージを締めて、ノントロッポのステージが終了。

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【Nontroppo 公式サイト】
http://www.myspace.com/nontroppl

【インフォメーション】
2010年01月18日(月) 福岡 graf
2010年02月19日(金)高円寺 HIGH
2010年02月20日(土) 青山 月見ル君想フ

【セットリスト】
1.New New Resort
2.Smile
3.セックスマンボ
4.ゲーマー
5.遠藤賢司に捧げる歌(朗読)
6.ナイト・オブ・トロピカリア
7.BON-ODORI
8.赤い彗星


インターバルの後、お待ちかねのエンケン登場です。まず幕が下ろされ、カオス状態だったフロアにお客さんが座りはじめました。エンケンのセッティング中に、ボギーが会場に流すBGMを選曲します。テーマは「フォロパジャクエンNo.1」。「フォロパジャクエンNo.1」とは、フォーク・ロックンロール・パンク・ジャズ・クラシック・演歌、音楽の価値は全て平等だ!という表現です。

選ばれた音楽は、ボブディランローリングストーンズリチャードヘルマイルスデイヴィスベートーベン北島三郎。フロアにびっしりと座ってエンケンの登場を待つオーディエンスは、「フォロパジャクエンNo.1」をどう感じたのでしょうか。やがて、カーテンの中からアコースティックギターの音色が聞こえ、突然カーテンが開きます!ギターを激しくかき鳴らすエンケンが登場し、オーディエンスから大歓声!椅子に座ってピックでギターを燃えるようにかき鳴らし、ハープを吹き鳴らします。

「夜汽車のブルース」でスタートし「不滅の男」と繋がります。椅子に縛られて、自由になろうと全力でもがいているかのようなアクションと、音のしぶきにオーディエンスは一発でノックアウト。目が釘付けとはこのことを言うのでしょう。そしてエンケンは語ります。「モーツァルトも好きだけど、モーツァルトの歌曲にコタツや畳が出てくるか?自分の生活から出てきた、自分の歌を歌うんだよ。」

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ピックの引っかき傷がピックガードからはみ出して、斜め45度に楕円形の傷マーク。傷マークは、どこかキスマークのようです。エンケンは続けます。「19歳のころからずっと、アコギでハードロックをやろうと思っていたんです。」「でもね、ジャンルに甘えたらダメなんだよ。本当の音楽は、それぞれの人間の魂の中にあるんだから」

不思議な指づかいでしっとりと歌う名曲「カレーライス」が始まると、ギターの音の粒ひとつひとつに芯があって、その芯がなめらかで微熱を帯びているよう。凄いの一言です。そしてニューアルバムからのタイトルソング「君にふにゃふにゃ」。エンケンがアルバムのポスターを掲げると、荒井良二の可愛らしいナイーブアートジャケットが見えます。エンケンの純音楽と絵の愛らしいコラボレーション。

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続いては「とても言えないこんな夢」、昔の彼女を追慕する「僕は涙がこぼれて落ちた」、そしてくたびれた心模様を歌う「僕の音楽は本当に良いの?」へ。パーソナルで細やかな優しさのにじむ逸品ぞろい。心に染みこみます。「人間の根本はラブソングにあるんです。だからそれは、あらゆる表現の根本は『好きだ』と言っているのだ、と思います」

「ジャンルにこだわるな!」叫ぶエンケンですが、僕はどうしても言いたい。「満足できるかな」この曲こそがロックンロールだと。ギター一本でこのグルーヴ感。ストロークが凄い!歌が凄い!ハープが凄い!カッコいいとしか言いようがありません。僕にとっては、日本のロックンロールの富士山のようなナンバーです。

アコースティックセットのラストは「踊ろよベイビー」。エレキギターに持ち替えると、アンプに通したような海鳴りのような爆音で演奏するのは「ビートルズをぶっとばせ」、そして「フォロパジャクエンNo.1」。エンケンの発光する魂の轟音!ギターを弾きながらドラムも叩く!座っている観客の間に入り込んで暴れる!アンプを倒して馬乗りになる!フィードバックノイズの嵐です!

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ワッショールは「夢よ叫べ」。エンケンのライブでは、アンコールは「ワッショール」と表現します。与えられた人生を生き抜くための、強烈なナンバーです。フォークもロックもパンクもジャズもクラシックも演歌も呑み込んで、宇宙さえも呑み込んで、ただひたすら怪物と化したエンケン。終演後、僕の心に突き刺さっている言葉。熱いだけでなく、芯の通った男のその言葉は、けして忘れることが無いでしょう。

「自ら作った昔の歌を、俺は聴かないよ!って言うヤツがいるけど、そんなやつは大嫌いだ。俺は自分が聴きたいレコードを作るんだ。昔の自分を否定しているヤツは、今の自分もたいしたことないってことだよ。上手でも下手でもなんでもいいから、ちゃんとヤレってんだ。ちゃんとすればいいんだよ」

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【遠藤賢司 公式サイト】
http://enken.com/kojo.html

【インフォメーション】
2010年01月01日(金)南青山 MANDALA
2010年01月09日(土) 川崎 CLUB CITTA
2010年01月30日(土) 沖縄 桜坂劇場ホールB

【セットリスト】
アコースティック
1夜汽車のブルース
2不滅の男
3カレーライス
4君にふにゃふにゃ
5とても言えないこんな夢
6僕は涙がこぼれて落ちた
7僕の音楽は本当に良いの?
8満足できるかな
9踊ろよベイビー

エレクトリック
10ビートルズをぶっとばせ
11フォロパジャクエンNo.1

アコースティック
1. 夢よ叫べ(ワッショール)


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■ヨコチンレーベル(イベント主催)
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Keyboard/8256/contents.html