コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「シーナはパンクロッカー」ラモーンズ


~J-PUNK誕生!~
「シーナはパンクロッカー」ラモーンズ その2

こうして中学生バンド「ザ・ロボトミーズ」を結成した4人は、それぞれの目的を胸に、「さあ、バンドやろうバンド!」と盛り上がりを見せた。

まずは学校の「軽音楽部」に入ろうということになり、部活見学をさせてもらった。しかしフォークソング主流である部員を見たとたん、案の定、沙織が「あんなダサいメガネ男子と同じ部はイヤ」と入部を拒否ったので、今日はとりあえず、例の「玉光堂」直営の楽器屋に集合し、「ロックの楽器を見る会」という「その気」になることをやっていた。

「このギターカッコイイ~わははわはは、あっ!」楽器の値段を見るなり震える4人。それは自分達のおこづかいで買える値段なわけもなく、早くも「その気」のデバナをくじかれた。しかしそれを口にしては、夢も希望もなくなってしまうだろう……という空気を破壊するのは、もちろんドラムス担当の笹井。「あれ? オレだけ超高くね? てか、うち団地だから買っても家で叩けないべや」と、夢イッカンの終わりなことを素で言った。

「楽器買うにしても練習スタジオ借りるとしても、やっぱりまずはバイトしなきゃだよなあ」空気を立て直すべく遠山はそう言うが、学校で許可が出ているバイトは、お正月時の郵便局だけだったので、今すぐというわけにはいかない。

そうか。バンドをやるということは「その気」だけでは無理なのか。お金がかかるし、音を出せる場所もいる。自己中(バカ)過ぎる沙織のストロング発言も、もう少しなんとかせねば…等々、「思い」や「夢」は頭の中ではリアルに描けるのだが、それは架空のリアルであり、真のリアルというのは、やはり物質的なものならびに人間関係が付随するのであった……と、やっと気づいたティーンエイジロボトミー達。I Don’t Want to Grow Upなどと言っている場合ではなかったのであーる。

「やっぱり軽音楽部に入部しよう。楽器を借りることもできるし」遠山が当然なことを言ったのに、「アタシはボーカルだから楽器いらないもん」沙織がまたバカ発言をしたので香織はさすがにイラっとした。「ボーカルだからこそ楽器できたほうがいいじゃん。ギターとかキーボードとか」バンドのボーカリストと「歌手」は違う。それは香織が「KAOROCK」で学びながら気づいたことだ。

「弾き語りとかやりたくないもん。アタシはバンドがいいの。歌に集中したいの」「だから……」と説明しようとした香織だが、沙織の発言内容よりも、最近彼女が、自分のことを「私」ではなく「ア」を強調した「アタシ」と言うことに気を取られていた。そのスキに、笹井が目を輝かせている。「じゃさ、じゃさ、オレがドラム買ったら貸してやるよ!」「はあ? なんで? ホテル・カリフォルニアでも歌わせたいの?」「ホテル貸し切り部屋? って何だベ?」「うまい! わはは」と遠山。香織もうっかりちょっとそう思って笑った。

「もう、いい!笹井の意見は論外!」笑わない沙織と、くじけない笹井の会話は続く。「だってさ、歌だけだったら練習するのむずかしいべや」「どういうこと?」「楽器あったほうがさ、歌いやすくね?」「ドラムだけで歌うほうがむずかしいわよ」「踊りながら歌えるベや、ズンタン、ズズタン、ズンタンズ、まわれかー、ざー、ぐるまー、てさ」なんと笹井は、リズムを口できざみながら、松山千春の「かざぐるま」を歌いだした。

「何それ、かっこ悪い。アタシはデボラ・ハリーみたいに歌いたいの!」沙織はさらにムッとしているが、笹井は、自分できざむグルーブで大好きな松山千春を歌う、というダブルな高揚感にラテンテンションが上がってきたらしく、小刻みにジャンプしながら歌っている。「かーざーぐるまー、かーざーぐるまー、いつうううま、で、もおおおおお~ズンタンズンタン、かーざーぐるまー、かあああざああ……」「うるさい!かざぐるまはやらないから、練習の例えにならない!」「じゃこれは? ズンタズンタズンタズンタ、めええええぐるうう、めぐる、きせつのな~かでえええ、ズンタズンタ」

「……すげーな笹井。おまえスゴイよ」遠山が感心している。「え? オレじゃないよ、千春だよ」「わ。あんたスゴイしコワい。ある意味パンク。しかもラテン。最強かも」香織も敬服する。KYもここまでくると、立派なデストロイ精神である。笹井の感性は無敵だ。

しかし笹井は、遠山と香織に褒められたことにピンときていないらしく、それよりも機嫌が悪い沙織のことが気になってしょうがない。「沙織、千春歌いたかったらレコード貸すよ!」「歌わない」「じゃ、何歌いたいの? あ、デブラさんだっけ? て、オレ知らないから教えて! どんな歌? 歌って歌って!」笹井がごもっともなことを言った。「そうだよ、沙織だけ楽器いらないんだったらすぐに練習できるしょ。ブロンディ歌ってみて」香織がイジワルな気持ちを込めてリクエストすると、沙織は勝気な顔をし、デタラメ英語で歌いだした。

「××▲○×★~エックス~、オ、ふぇんだー」なんじゃそら!「へええ、そんな歌なんだ~、それ何語? デブラさんて何人?」またしてもごもっともな笹井の意見。デタラメ英語がカッコイイのならそれもアリだけれど、沙織のソレはサムイものだった。耳にここちが悪く衝撃もない。かといって笑いもない。沙織の歌を聴く前に聴いてしまった笹井の歌に、ありえないインパクトがありすぎたのかもしれないが、正直、遠山と香織は沙織の歌にがっかりした。それを感じとった沙織が、すかさず逆ギレする。

「アタシ達、ラモーンズやるんでしょ、ラモーンズなら歌詞も簡単だから歌えるわよ! シーナイズパンクロッカーシーナイズパンクロッカー、ほらね」「そこは誰でも歌えるけど……。あのさ、さっきの笹井のディープインパクテッドな『かざぐるま』で思いついたんだけど、ロボトミーズは日本語で歌うパンクバンドにしない? そしたら学校祭とかで、パンクとか洋楽知らない生徒もみんなで歌えるべや」「遠山くんがどうしてもって言うなら、アタシはそれでもいいわよ」沙織が心でラッキーと叫んでいるのが分かった。「おお~、じゃ千春もOK!てことだな。じゃ、軽音楽部にも入れるベや」笹井が解釈を間違えながら喜んでいる。

「ええっ、ヤダよ軽音ダサイ! とくに部長がダサくてイヤ!」「でも場所も楽器も全部そろってるんだよ。入ろうよ。それに日本語でやるの、私も賛成。沙織の英語はダサいもん」「ううううなによ! 練習してないからよ!」「じゃ、軽音に入って練習しようよ」香織と沙織がモメ始めたので、笹井が仲裁にはいる。「だいじょうぶだよ沙織、軽音の部長、オレと仲いいから心配しないで」微妙!よけいに心配。しかし遠山のひと言で沙織は「しょうがない。いいわよ」とうなずいた。「沙織が入部したら、軽音楽部はたちまちオシャレになるよ」だって。さすがオトナ男子。そしてオトナのまま香織にこう言った。「香織が日本語の歌詞を書いてみて。まずは『シーナはパンクロッカー』を日本語でやろう」香織はびっくりして遠山を見た。沙織は「私の為に書くべきだ」とうなずいている。

香織は遠山に「KAOROCK」のことは秘密にしてあったけれど「音楽ライターになる勉強をしている」と言ったことがある。「妄想でデートしてるの」とは言えなくて「歌詞を日本語に訳したりしてるの」と言ったはずだ。彼はきっとそれを憶えていて、香織の勉強にも生かせるアイディアをくれたのだ。

遠山の発言は、香織にとって衝撃的なサプライズではあったが、それよりも、「やった~」とジャンプして踊っている笹井のほうが、衝撃だった。笹井はフェイクではない。「ガチ」だ。シド・ヴィシャスだ。香織は、なんだか自分の夢が、遠山のおかげで現実化していくような気分になって嬉しくなり、思わず笹井と一緒に踊った。

笹井:「やった~!」
香織:「やった~! レディトゥゴー」
笹井:「レレレゴーゴー」

遠山が「わはははカッコいいべや」と喜んでいる。沙織も満足そうにリズムをとっている。ああ、なんだかとても楽しいな、と香織は思った。まだ楽器はないけれど、バンドって楽しいんだな。「憑依タイプのライター」として、なぜミュージシャン達がミュージシャンであるのかが、ほんの少し分かったような気がした。

そしてこのバンドへの歌詞は、自分のためだけにコツコツ書いていく「KAOROCK」とは、違う方法で書こうと思った。実際に歌う沙織はもちろんだけど、ザ・ロボトミーズの全員が楽しんでくれる歌詞。そのバロメーターとして笹井を使おう、と思った。

数日後、香織はノート一冊ぶん書き直して完成させた歌詞を、みんなに見せた。「カッコいいべや!ピンときた」パッと目を通した遠山が、すぐにそう言ってくれた。

「沙織、これ『シーナはパンクロッカー』の曲に合わせて歌ってみて」「OK!」イメージを出すために笹井に口でドラムをやらせた。ズンタンズンタンズン……。沙織はそれに合わせて歌いだす。

seena

ほらキッズは飛んで跳ねてレッツゴー
さ、レディートゥゴーナウ
サーフボード片手に今夜はディスコティックゴーゴー
マシンガントークで
始発サブウェイで
ニューヨークなサッポロ
オーイエー オーイエー
笹井 イズ パンクロッカー
笹井 イズ パンクロッカー
笹井 イズ パンクロッカー ナウ!

ズンタンズンタンズン……。
ボボボボボ……。
ジャーン!

笹井、遠山、香織は、自分の楽器のイメージを声で演奏した。わ~~!バンドって楽しい!!「なんで笹井なのよ!ここはSAOLIにしなさいよ!」もちろん沙織は怒っていたけれど……。

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