コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

続「ドリーミング」ブロンディ


~音楽は夢。夢は自由~
続「ドリーミング」ブロンディ

「わあっ、ドラムだ!ドラムがあるよ沙織!」笹井は早くも大騒ぎしてドラムに近づいて行った。ぴょーんぴょーんぴょーん……。「ずっとドラム叩くのが夢だったんだ~。見たことしかなかったから、楽器屋で」ぴょーん、といっそう高くジャンプしながら、手のひらをパーにした笹井が、そのままシンバルを、バッシーンと叩こうとしたので、マークがあわてて叫ぶ。

「おい!そのドラムは、ベルマークでやっと買ったんだ!まださわるなよ」「えっ?まだダメ?じゃ、あとでさわるね!」笹井は挙手しながらのポーズで地上に降りると、そう言って、シンバルの代わりにマークの肩をポン!と叩いた。「あとで、っていうか、うちの部に入部するには、まず審査があるんだ。その審査に通った生徒しか入部できないことになっている」マークは笹井の手を払いのけると、メガネの柄をクイっと上げた。

遠山が聞き返す。「審査って……演奏の?だったらオレたちはまだ演奏できない。だから入部して練習したいと思ってるんです」「演奏ではない。心構えだ。いくつか質問するのでここに座ってくれ」マークが椅子を並べ始めたので、すかさず香織と遠山が手伝う。笹井はドラムに触れないように、シンバルにギリギリまで手や顔を近づけるというスリルを味わっている。

「審査って何よ。コイツのセンスで審査されるなんて冗談じゃないわ」沙織は腕を組んでぶつぶつ文句を言いながら、椅子が並べ終わるのを待っている。「さあ、みんな座って!」なぜか笹井が号令をかけたのが不自然だったが、山崎マークと、ザ・ロボトミーズの4人は、部室の真ん中に円形に並べられた椅子に座った。

マーク:「では、審査にはいります。キミ達がバンドを始める目的は何ですが?」
沙織:「アタシはね、退屈な毎日をぶち壊したいの!ティーンエイジャーである今を生きたいの!」
マーク: 「そんなに退屈ですか?宿題とか塾とかは?」
沙織:「う、いや、けっこう忙しいけど、でも、私達の10代は今しかないんだよ!」
マーク:「音楽は10代だけのものではないと思いますが」
沙織:「そうだけどアタシは……」
遠山:「オレたちは音楽が好きなんです。沙織は、ロックの生き様も好きなんだよね」
沙織:「そ、そうよ。生き様よ」
笹井:「まーくん、沙織は生き様がカッコイイんだよ!だから沙織に歌ってほしいんだ~」
沙織:「そうよ。みんなが私の歌を聴きたがっているのよ」
遠山:「オレ達が大好きな音楽を演奏できるようになって、みんなにも聴いてもらいたいと思っています」
香織:「私も音楽が大好き。音楽を理解するために自分達で演奏したいんです。でも楽器が買えなくて……。でも軽音楽部に入部できたら楽器は無料だし。音楽への妄想が夢になって現実になっていくと思ったんです」
笹井:「まーくん!香織は作詞もするんだよ」
マーク:「作詞を?どんな詞ですか?」
笹井:「笹井イズ パ~ンクロッカー!っていうやつとかだよ!」
沙織:「ちょっと!SAOLI イズでしょ?」
マーク:「……風景や心情が見えない歌詞ですね」
遠山:「今のはインスピレーションやパッションで綴った歌詞ですが、香織はこれからもっといろいろな歌詞を書きますよ。夢のある歌詞を」
香織:「えっ、夢のある歌詞……?」

遠山が、自分を評価してくれるのが嬉しかった香織は、がぜんこの審査に通りたいと思った。

マーク:「夢のある歌詞?たとえば?」

香織以外の全員が、それぞれのポジションから香織に注目した。「ええと……」香織は一瞬アセったが、すぐに思い直した。審査とはこういうことか。要するにこの部長に「このバンドは良い」と思ってもらえばいいんだな。よし!「KAOROCK」で鍛えたいろいろなスキルをここで活用しよう!この審査はライブであり、取材であり、洞察力であり、判断力であり、執筆であり、締め切りであり、発表であり、みんなの評価だ!

この部長はフォークソングが好き。でもガロが好きなら、ロックが嫌いなわけではないと見た。つまり、この審査は音楽のジャンルよりも、この部長が感動するかどうか。そして出されたお題は「夢」。夢とはなんだろう。夢……夢は……。そうだ、今ここにいる5人全員(特にマーク)が「夢」だと感じられるワードを並べよう……。

8

香織は、椅子から立ち上がると、黒板に向い、ピンク色のチョークで、黒板いっぱいに歌詞を書き始めた。「沙織、これブロンディの『ドリーミング』に合わせて歌ってみて」「オッケー!アタシにまかせて」ボボボンボ、ボボボボ……。この曲を熟知している遠山も立ち上がり、みんなを引っ張るようにベース(口くち)を始めた。

ジャカジャーン!香織もギター(口くち)をかき鳴らす。ダカドコダカドコドコドコドコ……!この曲を知らないはずの笹井が、なぜかタム(口くち)をまわし、リズム(口くち)をキープしている!ぴょんぴょんぴょんぴょん……。笹井が持つ「勘」は今日もヤバい。これはもはやパンクだラテンだなどと言ってる場合ではない!そうだ!笹井は「スピリチュアル」だ!

「ワン、ツ、スリ、ぴょーん!」天声笹井の掛け声で、沙織が歌い出す。日本語でなら、そのイメージを膨らませることができる沙織が歌う。自信を持つほど、どんどん堂々と歌う。楽器たち(口くち)のグルーブが、その歌を乗せて踊りだす。

Hey!学生街のレストラン
You!くれなずむ街の
UhWaSaのチャンネル?
映画?それともダンス?
カトー茶 カップオブティー
音楽は ドリーミング!ドリーミング イズ フリー!
ドリーミング!無料で自由!
ドリーミング!夢は自由!
笹井!笹井イズ フリー!

「ちょっと、なんでまた笹井なのよ!SAOLIに変えるわよ!」どうぞご自由に……!怒る沙織に、香織は微笑んだ。そのまま、目を合わせた4人が笑顔になっていく。バンドって楽しい。楽しむかどうかは自由。ジャーン!ボボボボ!ドコドコドコドコ……。

マークは、無表情で椅子に座ったまま、そんな4人を見ていた……。

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