コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ドリーミング」ブロンディー


~音楽は夢。夢は自由~
「ドリーミング」ブロンディー

こうして、口(くち)での演奏に自信を持ったザ・ロボトミーズの4人は、翌日の放課後、軽音楽部のドアを叩いた。

遠山が部室のドアをノックする。トントン……。出ない。「はいるわよ!」沙織がぐぐぐっと引きドアを開けようとしたが、しっかり鍵がかかっている。「ファッキンドア!アタシらでぶち壊そうか!」中指を立てて怒っている沙織にちょっと引いた香織は、横目で遠山を見た。まあまあ、と苦笑する遠山。オトナっぽい。

「したっけここで待ってるべ!てか怒った沙織はカッコいいな~。沙織はホンモノのパンクロック?だっけ?だもんな!すげーな~」笹井がいちいち沙織を「褒めはしゃぎ」ながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている。なんという笑顔。しかも何気にジャンプが高い。ぴょーんぴょーん……。

「だからぁ、アンタのほうがパンクだっつーの……」香織のつぶやきに、遠山がクククと笑った。沙織は、さらに「パンク」を表現するためなのか、部室のドアをバンバン蹴飛ばしている。「こんなドア!デストロイ!デストロイ!」「だははは~!沙織も、うわさのチャンネル好きなんだ!デストロイヤー!デストロイヤー!」ぴょーんぴょーんぴょーんぴょーん……。

見かねた遠山が、壊れた二人を注意する。「蹴りはナシだよ沙織。笹井もポゴらないで」「え?保護?」「ポゴ……あ、いや跳ねないで。入部のお願いに来たんだから普通にしようよ普通に。部長かなり変わり者らしいから、怒らせたりしないようにしたほうがいいべや、な」「う、分かったわよ。あー、部長って、見学した時、一人で暗く弾き語りとかやってた奴でしょ?あいつキモかった~」

沙織は、素直に蹴りは止めたものの、ここの部長だけはどうしても許せないようだ。そうだ。その部長とやらは、確かにこっちが挨拶しても無視するようなぶっきらぼうメガネで、香織もあまり良い印象は持たなかった。「そうだねえ。とっつきにくそうな奴だったのは確かだね……あ、でもさ、笹井、アンタ友達なんでしょ?だったら……、あ、あれ? 笹井は?」「え? あれ? 笹井がいない!」「うそ、今ジャンプしてたじゃん!どこ行った? トイレ?」

部室の前で、笹井抜きの3人がキョロキョロと笹井を探していると、どこからともなく楽しそうな笹井の声が聞こえてきた。「オレさ、千春に憧れてドラムはじめたんだよ~!あ、まだ口(くち)だけどさ~。え?いや、なんで千春なのにドラムかというとさ、オレさ、沙織にも憧れてるべや、えへへ~ナイショだぜ!え?いや、沙織は千春じゃなくてデブの、あれ?誰だっけ、デブさんとかいう人に憧れてるからさ、だからオレもそのデブさんに憧れようと思ってさ~。え?あ、バンドだよ。あとは遠山と香織と、ザ・ロボコンズっていうんだ~、あれ?ロボコンじゃなくて、なんだっけ……ロボなんとかズだよ」

何を、誰と、誰に話しているんだ笹井!まさか独り言……あっ!3人が見たものは、廊下の向こうから肩を並べて歩いてくる笹井&メガネ部長の2ショットだった。「笹井あんた、いつの間に……」香織は、笹井の自由なワープ能力に驚きながらも、「KAOROCK」で身につけた観察力で、こちらに向かって歩いてくる二人をガン見していた。

それにしてもなぜだろう?ここまで聞こえてくる彼らの会話?は、笹井の独り言のように聞こえる。それは、部長の声がとてもとても小さいからだろうか?いや違う。部長は、笹井を完全に無視しているのだ。なのに笑顔で喋る笹井。傷ついてもいいのに……。

「お~い!みんな~!」笹井がこっちに向かって手を振っている。といっても別にそんなに遠くからではないので、笹井と部長は、すぐに3人の前に到着した。部長がギロリと3人を見る。「な、なによ、睨まなくてもいいでしょ!ていうか笹井!あんた急にいなくなるんじゃないわよ」沙織は、遠山と香織が放つ、入部を断られたらマズイ、という空気を察したらしく、いきなりテンションの矛先を笹井に向けた。笹井はそれが嬉しかったらしく、キラキラと笑う。

「いや~ゴメンな沙織~!まーくんがトイレ行くの見えたからさ~、俺、あわてて追いかけたベや、な、まーくん!あ、こいつまーくん、軽音楽部長のまーくん、本名は山崎雅樹。やまざきまさき。まとさときが2回ずつの山崎雅樹。あだ名はまーくん」「マーク」「えっ?まーくんじゃないの?」「マーク。ガロに影響されて」「え?ガロって……学生街のレストランの!あのガロ?」「そう。喫茶店だけどね」「うひゃ~!俺も好きさガロ!ねえ、遠山!ガロもやろうよ!嬉しいなあ~、そうか喫茶店か~、レストランは誰だっけ?分かったシミケンだ!『ムー』にも出てた人!あ、そうだ香織!ガロの日本語詞よろしく頼んだよ!待ってるから」

8

「そんな……」香織は遠山に助けを求めたが、さすがの遠山でさえ、どこからつっこんでいいのか分からなくなっていた。しかもなんと笹井は、あちこちに暴走しているわりには、この場を仕切り始めた。「まーくん!みんなを紹介するよ。これが沙織ロボット、遠山ロボット、これが沙織、じゃない香織ロボット、そしてオレ笹井ロボット。4人合わせてザ・ロボなんとかズだよ。今日からみんな仲間だね、よろしくお願いします!じゃ……」

笹井は、山崎マークが手に持っていた鍵をサッと取り、カチッと鍵を開け、ガラッと部室のドアを開けた。「おい!」と言いたげなマークよりも先に、笹井はマークに「いいっていいって」と、まさかの遠慮するな合図を出した。部室のドアが全開し、一番先に目に飛び込んできたのは、まぶしく輝く「楽器たち」だった……。

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