コラム
ファンタジー私小説「ティーンエイジ・ラブリー」
森若香織
スーパーガールズバンド「GO-BANG'S」のヴォーカル&ギターでデビュー。 "あいにきてI NEED YOU"等をヒットさせ、武道館公演を行う。アルバム「グレーテストビーナス」ではオリコン第1位も獲得。 現在は作詞家として活躍中の他、ソロ音楽活動や舞台ドラマ等の女優活動もしている。

「ロウダウン」ボズ・スキャッグス


~コーラスガールになったKAORI~
「ロウダウン」ボズ・スキャッグス

自分の名前の真ん中に「AOR」があることで気をよくしていた香織は、調子に乗りすぎて妄想の恋人ボビー・コールドウェルにあっという間にフラれたが、その後ボズ・スキャッグスに恋をして楽しい毎日を送っていた。

それにしてもあの日、もし沙織が横にいて「とばされた」香織を見たらどんな顔をしただろう。玉光堂ダブルデートのリベンジだと言わんばかりに、「ざまあみそらひばり!」と笑っただろうか? それとも、「ボビーと二股かけていたことを遠山にチクってやる、このビッチ!」と、脅しただろうか……?ひええ。

悲しいというよりカッコ悪いボビーとの別れではあったが、コンサート会場に沙織と一緒に行かなかったことが不幸中の幸いだったわい☆と香織は胸をなでおろした。だがしかし、いずれにせよ沙織はコワイ。最近ますます「ススンデル女子」っぷりのアピール度が増して「アタシは今を生きてるぜ」とか、「ロックは死んだのさ、ノーフューチャー」とか、ジョニー・ロットンばりのフィロソフィカルな発言(パクリ)をし、しかもそれを必要以上にロックっぽい言い回しにしたり、遠山と香織がひそかにつきあっていることを知ってか知らずか、例のダブルデートメンバー、沙織、香織、遠山、笹井の4人を集めては「映画サスペリアを観る会」だの「ダンキンドーナツを食べる会」だのを開催しているのだ。

玉光堂からフェイドアウトした香織と遠山を、沙織はきっとアリス・クーパーばりの形相で怒り狂うだろうと、その後しばらくビクビクして登校していたのだが、沙織は、香織にも遠山にも「グモーニン」なんて言って特に何事もなかったように接した。それどころかむしろ嬉々として「○○の会」を開催していることが逆に怖かったのだが、その後も怒ったり暴れたりせず、沙織はなぜかこの4人で行動することにこだわった。

もしかしたら「必ずおとす」と言った沙織のターゲットは、遠山オンリーではなく、香織も笹井も「全員おとす」という意味だったのか?家来?だとしてもまあ、香織としては怒られなくてホッとしたし、「沙織と二人だけのデートにしてくれてありがとう」と、さっそく沙織に仕込まれたであろうベイ・シティ・ローラーズネタで遠山に礼を言ったらしい笹井ウォッチングも含め、この4人で行動することはキライではなかった。

ところがある日、ついに沙織の「本当の魂胆」が発表されたのだ。その日は「ケンタッキーのアップルパイを食べる会」だったので、下校途中、4人はケンタッキーに集合した。笹井は、今日も沙織と一緒にいられる嬉しさを隠しきれず、「沙織、オレおごるよ!いいっていいって!」と、遠慮もしていない沙織のぶんだけおごっていたので、私と遠山は苦笑しながら、それぞれ自分のアップルパイを買って席についた。

「私達4人で、バンドやろうぜ!」沙織は、笹井に買ってもらったアップルパイを自分だけとっとと食べ終わると、そう言った。まさかの「バンド結成発言」に驚いた香織達は、アップルパイを持ったまま一斉に沙織を見た。ぽかんと開けた笹井の口元に林檎がついている。

「私はボーカル、遠山くんはギター、香織はベース、笹井はドラム。やるよね?」沙織は楽器のパートまで決めていた。速攻で答えたのはもちろん笹井で、彼は林檎をつけたままはしゃいだ。「おう!やるにきまってるべや!なあ、遠山!」遠山は一瞬、オレにふるのかよ、という顔をしたが、思いのほか笑顔で、「いいよ」と言ったので、香織はますます驚いた。

したり顔の沙織が、香織をギロリと見て、「香織はジーン・シモンズみたいなインパクトのあるベーシストになってほしいんだよね」と言ったので香織は答えた。「私、ほかの人のバンドでコーラスやることになってるから無理!」今度は沙織達が一斉に香織を見た。

笹井:「うっそ!誰のバンド?」
遠山:「へえ、そうなんだスゴイね。パンクバンド?」
沙織:「コーラス? 許さねえ……。アンタはベースよ!私とやりなさいよ!」
香織:「あっ、今日もこれからリハーサルだから、もう行かなくちゃ!ごめんね~」

みるみるアリス・クーパー顔に変身していく沙織が恐ろしくなった香織は、遠山に目であやまると、一目散に家に帰った。待てコノヤロウ~!と騒ぐ沙織の声と、まあまあ、となだめる遠山の声が背後から聞こえた。その日の夜、KAORI(香織)の「リハーサル」が始まった。そう、もちろんそれは香織の妄想「KAOROCK」の中の出来事である。

ある日のリハーサル取材「ボズ・スキャッグスの巻」

ボズ:「みんな、今日は新しいコーラスのKAORIを紹介するね」
KAORI:「よろしくお願いしまーす」
ジェフ・ポーカロ:「よろしくね!」
デヴィッド・ペイチ:「ハーイ!KAORI!」
ボズ:「では“ロウダウン”をやろう。KAORIは途中から♪ウー~~、アイワンダワンダワンダワンダ、フー~~のところを歌ってね」
KAORI:「オッケー、ボズ!」
ボズ:「じゃ、ジェフ!」
ジェフ・ポーカロ:「がってんだ!」

KAORIの心臓のトキメキと同じBPMで、ジェフのドラムがスタートする。スネアとハイハットがズッタンズッタン(うわっカッコいい)ほどなくベースイン!(きゃっ!)ズッタンズッタンズッキンドッキン……。なんという無駄のないイントロ。まるで世界で一番カッコいいミュージシャン達だけが、それぞれの楽器を奏でながら一人ずつ登場するようなイントロ。

ドラム、ベースの後に続くキーボード、ギター、そしてフルートは、その存在感で威圧することなく、夕暮れの微風のように心地良い。そして、今始まったこの音楽という美しい景色の真ん中で、シルクディグリーズな微笑みを浮かべるアナタ「ボズ」が歌い出す。

大騒ぎしているあの娘は
「彼はなんでも買ってくれるの」
なんて大声を出してる
君はどれだけ貢いだんだい?

6

甘いケーキの中に数滴たらしたリキュールのように、ふわっと鼻に抜けるセクシーヴォイスがKAORIのハートを鷲づかみにする。世界で一番ステキなボズ!アナタの音楽の中にいると、心も体も自然に踊りだしてしまうわ~。それに……、この歌詞はまるで沙織と笹井のようね。そうかボズ、あなたは今日、ケンタッキーで私達のことを見ていたのね……。それをこんなふうにさりげなく、なのに完璧に歌ってくれるのね……。ボズの優しいはからいに、KAORIは眩暈がするほど幸せな気持ちになった。

そしてその眩暈がかもし出すグルーヴに乗って、ついにコーラス、イン!絶え間ないグルーヴの波に揺れ歌うKAORI。コーラスの波間を縫うボズの声。音の海で泳ぐボズとKAORIの世界。ヴォーカリストとコーラスガールは、まるで心を絡ませるように歌った。

うー、いったい誰が
あの娘にあんな口のききかたを教えたんだい?
うー、いったい誰が
あの娘にあんなバカげた考えを吹き込んだんだい?
I wonder wonder wonder wonder who?
ズッキンドッキンズッキンドッキン……。

この音楽は、本当の海のように永遠に終わらないのではないだろうか?なーんて夢を見るほど、終ってほしくない「ロウダウン」!最高のメンバーにかこまれて最高にイカしたボズでした。by 西郷かおり子

はー!楽しかったな~リハ。I Luv BOZ××××!!!記事を書き終わって大満足の香織だったが、ふと気になった。「Low Down」というこのタイトル。眩暈がするほど幸せでも、歌ったり踊ったり自由に文句を言ったりしているそれは、自分だけの勝手気ままな幸せで、そんな幸せは「Low Down」卑劣な、堕落した、と訳すのか?ふん!それは沙織……あ、いや私か!えへ!

でもなあ、遠山のことは大好きだけど、妄想記事のことは秘密にしたいし~。つきあっていることは沙織に秘密にしたいし~。秘密が多いことは「LowDown」なこと?でも秘密があるから、4人でいられるのにね。「ねえ、ボズ、どう思う?」香織がそう言うと、ボズはギターを弾きながら「What Can I Say(なんて言えばいいんだろう)」と、誰よりも素敵に歌った。

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